嶋清一

嶋清一：戦火に散った伝説の左腕

嶋清一（しま せいいち、本名：島 清一、1920年12月15日 - 1945年3月29日）は、和歌山県和歌山市出身の野球選手です。投手として、1939年夏の甲子園で伝説的な活躍を見せました。5試合全てを完封勝利し、準決勝と決勝では2試合連続ノーヒットノーランを達成。この偉業は、いまだに破られていない記録として輝き続けています。しかし、太平洋戦争の激化により学徒出陣で召集され、24歳の若さで戦死しました。

生い立ちと野球への道

嶋清一の父は、日本通運で荷馬車を引く「馬力引き」の職に就いていました。養子として嶋家に迎えられた清一は、幼少期から野球に親しみました。そのきっかけは、和歌山出身の野球選手、小川正太郎の逸話を父から聞かされたことだと伝えられています。

高等小学校卒業後、和歌山県立海草中学校（現・和歌山県立向陽高等学校）に進学。1年生時には一塁手として夏の甲子園に出場したものの、チームは初戦敗退しました。2年生になる直前、長谷川信義監督の指導の下、投手に転向。長谷川監督は嶋の才能を見抜き、厳しくも丁寧な指導を行い、投球フォームを徹底的に修正していきました。嶋自身も、長谷川監督の指導に深い感謝の念を抱いていたようです。

3年生になると主戦投手となり、甲子園でも活躍を見せますが、優勝には届きませんでした。この頃の敗戦について、嶋の性格の優しさやプレッシャーへの弱さ、家庭環境、チーム内での人間関係などが要因として挙げられています。

甲子園での伝説

しかし、1939年夏の甲子園で、嶋清一は奇跡を起こします。全5試合を完封し、準決勝と決勝では2試合連続ノーヒットノーランという驚異的な成績で優勝を果たしたのです。この快挙は、日本の高校野球史に燦然と輝く金字塔となりました。

この成功の背景には、捕手の交代、2ヶ月間の休養による怪我の回復、そして、新監督杉浦清の指導法などが挙げられます。杉浦監督は選手の自主性を尊重しつつ、合理的で効果的な練習方法を取り入れました。

嶋清一の投球は、当時の中学野球のレベルをはるかに超えるものでした。足を高く上げる独特のフォームから繰り出される剛速球と、垂直に落ちるようなドロップは「天魔鬼神の快投」と評されました。

大学時代と戦争

海草中学校卒業後、明治大学に進学。当初は先輩投手の影に隠れ、思うように活躍できませんでしたが、上級生の卒業により主戦投手となり活躍しました。しかし、甲子園での輝かしい活躍とは対照的に、大学での成績は低迷しました。1941年には南海から勧誘を受け入団交渉を進めるも、関係者の説得により明治大学に復帰しました。

大学最後の年には主将を務め、学徒出陣により海軍に応召。入営直前に結婚した妻は、嶋清一の熱烈なファンでした。

海軍では、電波探知（レーダー）監視の教育を受け、和歌山に配属されました。しかし、1945年3月、シンガポールから門司に向かう輸送船団の護衛任務中、アメリカの潜水艦の雷撃を受け戦死しました。

嶋清一の野球史における位置づけ

嶋清一の活躍は、後世の野球選手にも大きな影響を与えました。野球漫画『巨人の星』の主人公、星飛雄馬のモデルになったとも言われています。また、同郷の西本幸雄や大学の先輩である藤本英雄など、多くの関係者からその才能と人となりについて証言が残されています。

戦後、彼の偉業は徐々に忘れられつつありましたが、1998年に松坂大輔投手が夏の甲子園でノーヒットノーランを達成したことをきっかけに、再び注目を集めるようになりました。2003年には和歌山市の偉人に選出され、2008年には野球殿堂特別表彰を受賞しました。

嶋清一は、類まれな才能を持ちながら、戦争によってその生涯を閉じた悲劇的な英雄です。彼の伝説は、日本の高校野球史、そして、戦争の悲惨さを後世に伝える貴重な記録として、語り継がれていくでしょう。

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