川上眉山

川上眉山：美文の作家、その光と影

川上眉山（かわかみ びざん、1869年4月16日 - 1908年6月15日）は、明治時代の小説家であり、その美しい文章で多くの読者を魅了しました。大阪で生まれ、本名を亮といいました。別号として煙波山人という名も用いました。

生涯

眉山は、元幕臣である川上栄三郎の長男として生まれました。父・栄三郎は明治維新の際に彰義隊に加わりましたが、敗れて大阪へ移り、そこで士族の娘と結婚しました。眉山は一人っ子として育ちましたが、作家の田山花袋に、自身が養子であり、幼少期には実の両親と各地を旅した記憶があると打ち明けたそうです。

幼少期に家族と共に東京へ移り住み、父は筆墨商と下宿屋を営んでいました。眉山は東京府第一中学、進文学舎を経て、大学予備門に進学し、そこで尾崎紅葉、山田美妙と出会い、硯友社の創設に参加しました。1888年に『我楽多文庫』に処女作「魂胆秘事枕」を発表し、その後も戯文を掲載して人気を博しました。同年、文学に専念するため、帝国大学文科大学を中退しました。

1890年、「墨染桜」で注目を集め、博文館『日本之文華』に執筆するほか、尾崎紅葉に続いて『読売新聞』の社友としても活躍しました。その後、硯友社とは距離を置き、『文学界』のメンバーと交流を深めました。社会の矛盾を題材とした観念小説「大盃」「書記官」「うらおもて」などを発表し、人気作家としての地位を確立しました。

しかし、1896年に父親が借財を残して亡くなり、その負担に苦しめられました。家を畳んで江見水蔭の家に身を寄せ、放浪の旅に出ました。その際に三浦半島での生活を綴った「ふところ日記」は、文章が高く評価されました。1900年に義母が再婚したことで経済的な負担は軽減されましたが、酒癖が悪化し、警察沙汰になることもありました。

1903年には代表作となる『観音岩』を発表し、数年の文学的停滞を脱しました。同年、13歳年下の里見鷲子と結婚し、生活も安定しました。1905年には『観音岩』を『国民新聞』に連載し、厭世観の強い『ゆふだすき』などを発表しました。

1908年6月15日、川上眉山は文学的な行き詰まりを感じ、剃刀で喉を切って自殺しました。享年40歳でした。自殺の前日には幼い息子が遊ぶ様子を眺めており、自殺の兆候はなかったと言われています。数年前から、夢の中でバイロンの詩集の一部を翻訳し、翌朝ノートにその内容が書かれているという不思議な体験をしていたそうです。田山花袋は、眉山には精神的に不安定になる傾向があったと指摘しています。通夜には、石橋思案、巖谷小波、広津柳浪、江見水蔭などの作家が参列しました。

没後、『眉山全集』が刊行され、彼の業績を偲ぶことができました。

人物像

樋口一葉は、眉山を背が高く色白で、「女子の中にもこのように美しい人はいない」と評しています。内田魯庵も、若い頃の眉山を色白で薄化粧をしているように見え、眩しいほどの美貌であったと記しています。趣味は盆栽で、芝居などには興味を示さなかったそうです。また、着道楽であり、子供の衛生や玩具、食べ物にもこだわりがありました。1907年頃には門人育成のために春星会という会を設け、月に一度開催しました。

主な著書

蔦紅葉
黒髪
二枚袷
柴車
網代木
大村少尉
奥様
ふところ日記
神出鬼没
青春怨
美文良材
新体詩資料
観音岩
二重帯
新家庭
眉山全集
* 眉山美文集

川上眉山は、その短い生涯の中で、美しい文章と社会への鋭い視点を持つ作品を数多く残しました。彼の作品は、今もなお多くの読者に読み継がれています。

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