川崎市中央卸売市場

川崎市 中央卸売市場

川崎市中央卸売市場は、神奈川県川崎市が設立し、その運営を担う重要な公共施設です。この市場は、市民の皆様の食卓に新鮮な食材を安定的に供給するための流通拠点として機能しており、現在では北部市場（宮前区水沢）が唯一の中央卸売市場として業務を行っています。

市民の台所を支える拠点

政令指定都市として多くの人口を擁する川崎市にとって、生鮮食料品等の円滑な流通は市民生活の安定に不可欠です。中央卸売市場は、こうした重要な役割を果たすため、生産者から集められた食材を卸売業者や仲卸業者を通じて小売業者や実需者へ供給する仕組みの中核を担っています。また、「川崎市中央卸売市場」という名称は、市場を管理運営する市の担当部局の名前でもあります。

かつて、川崎市の中央卸売市場は、現在の南部市場にあたる「本場」と、1982年（昭和57年）に開場した北部市場の二つの市場体制で長らく運営されていました。しかし、時代とともに市場を取り巻く状況や取扱量が変化する中、国の整備計画に基づき、より効率的で現代のニーズに合った市場機能のあり方が検討されました。その結果、2007年（平成19年）3月に南部市場は中央卸売市場から地方卸売市場へと転換することとなり、同年4月からは「川崎市地方卸売市場南部市場」として新たな形態で業務を継続しています。これにより、川崎市の中央卸売市場は北部市場一つに集約されました。

沿革に見る市場の変遷

川崎市における公設市場の歴史は、第二次世界大戦中の1944年（昭和19年）に、現在の南部市場の敷地に「川崎市中央市場（本場）」が開設されたことに遡ります。戦後、市場制度の整備が進む中で、1956年（昭和31年）には農林水産大臣から中央卸売市場としての正式な開設認可を得て、関連する業務規程等も制定されました。

1958年（昭和33年）3月には、本場に加えて中原分場（丸子通）と高津分場（溝の口）が中央卸売市場として業務を開始し、市場機能の拡大が図られました。当初、これらの分場は民有地で運営されていましたが、中原分場は1960年（昭和35年）に市有地へ、高津分場も1961年（昭和36年）に市有地へと移転し、より安定した運営基盤が整備されました。

市場内の取引形態も多様化し、1959年（昭和34年）11月には本場の水産物部で仲買人制度が導入され、これと並行して関連事業者による業務も始まりました。また、花き取引の場も設けられることになり、1960年（昭和35年）に川崎市花き条例が制定され、卸売人が認可された後、同年10月には本場に併設される形で川崎花き市場が開場しました。

市場に関する法制度も変化し、1970年（昭和45年）には新たな卸売市場法が施行され、これまでの古い法律は廃止されました。この法改正を受け、1972年（昭和47年）には川崎市でも新しい業務条例が施行され、これまでの規程等が置き換えられました。この際、中原分場と高津分場はそれぞれ「中原市場」「高津市場」と名称が変更されています。さらに同年7月には、青果部でも仲卸制度が導入され、市場ごとに仲卸業者が指定されました。1974年（昭和49年）4月には、本場と溝の口の卸売場に花き部が開設され、花きの流通機能が強化されました。

市場インフラの抜本的な強化として、1979年（昭和54年）1月に現在の北部市場の建設が着工されました。そして、1982年（昭和57年）6月に北部市場の開場式が行われ、同年7月から本格的な業務が始まりました。北部市場の稼働に伴い、中原市場と高津市場はその役割を終え、廃止されました。また、かつて本場と呼ばれていた市場は、この時に「南部市場」と正式に名称が変更されました。

南部市場はその後も中央卸売市場として北部市場と共に機能していましたが、市場を取り巻く状況の変化を受け、2007年（平成19年）3月に神奈川県知事の許可を得て地方卸売市場へと転換しました。これにより、翌4月からは「川崎市地方卸売市場南部市場」として、中央卸売市場とは異なる位置づけで業務を続けています。この転換を経て、川崎市の中央卸売市場は現在のように北部市場の単独体制となりました。

市場の利用と新たな試み

現在、川崎市の中央卸売市場は北部市場に集約されています。卸売市場としての機能に加え、場内には関連事業者棟があり、一般の買い物客も利用できる様々な店舗が出店しています。また、市場の業務に支障のない時間帯であれば、一部の仲卸売場でも一般の方が直接買い物をすることも可能です。

さらに、北部市場を拠点とする事業者からは、流通の未来に向けた革新的な取り組みも生まれています。例えば、2018年には北部市場水産仲卸協同組合が、大学や企業、そして市の支援を得て、独自の熟成技術を用いた鮮魚の熟成魚の商品化を日本で初めて実現させました。これは、地域資源と技術、そして産学官連携が融合した注目すべき事例と言えます。

川崎市中央卸売市場は、時代とともにその姿を変えながらも、常に川崎市民の豊かな食生活を支え続ける重要な役割を果たしています。

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