川畑秀明

川畑秀明

川畑秀明（かわばた ひであき）は、1974年生まれの日本の心理学者。特に感性心理学の分野で国内を代表する研究者として知られ、現在、慶應義塾大学文学部人文社会学科の教授を務めている。脳科学的手法を用いて美意識や芸術の知覚メカニズムを解明し、この分野の発展に大きく貢献している。

経歴

鹿児島県鹿児島市に生まれ、鹿児島県立鹿児島中央高等学校を卒業。教育者を目指し鹿児島大学教育学部で心理学を専攻し、1997年に卒業して小学校教員免許を取得した。その後、研究の道を志し、九州大学大学院文学研究科で心理学の修士号を1999年に取得。日本学術振興会の特別研究員として研究活動に従事した後、2001年には九州大学大学院人間環境学研究科博士課程を早期修了し、博士（人間環境学）の学位を取得した。博士号取得後、イギリスのロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン（UCL）認知神経学研究所の研究員として海外での研究経験を積んだ。帰国後、2002年に鹿児島大学教育学部の講師に着任し、2004年には助教授に昇任。2009年からは慶應義塾大学文学部に移籍し、准教授を経て2018年に教授となった。また、日本基礎心理学会の幹事や日本学術会議の連携会員なども務めたほか、近年は東京藝術大学や横浜市立大学で客員教授としても教鞭をとっている。

研究活動

専門領域は多岐にわたり、感性心理学（実験美学、神経美学、対人魅力や対人印象、抗加齢医学分野への応用、感性・鑑賞教育）、芸術心理学、認知神経科学、知覚心理学など幅広い。中心的な研究テーマは、人間が「美」や「芸術」をどのように感じ、評価するのかという心と脳の働きである。特に、美意識の形成、芸術作品の鑑賞プロセス、顔や身体の魅力がどのように認知されるか、そしてそれが抗加齢などに応用できないかを探求している。発達段階や文化による違いも視野に入れながら、美やアートに関わる脳と心の多様性や個性に焦点を当てた研究も行っている。絵画、音楽、デザインといった芸術分野だけでなく、顔の魅力、創造性、さらには広告効果、ユーザーエクスペリエンスやユーザビリティといった応用的な側面まで、研究対象は広範に及ぶ。

特筆すべき研究

特に国際的に知られる業績として、UCL滞在中に脳と美の研究で世界的に著名なセミール・ゼキ教授と共同で行った研究が挙げられる。この研究「Neural correlates of beauty」（Kawabata & Zeki, 2004）は、機能的磁気共鳴画像法（fMRI）を用いて、人が「美しい」と感じる瞬間の脳活動を捉えた先駆的なものであり、神経美学分野における古典的研究として非常に多くの論文に引用されている（引用数1300以上）。

著作

心理学や脳科学に関する著作も多数発表しており、一般向けの啓蒙書から専門書まで幅広い。

著書

『やわらかい「わたし」のつくりかた : 脳とこころで学ぶ、自分と世のなか』（柏書房、2005年）
『認知心理学』（箱田裕司らとの共著、有斐閣、2010年）
『脳からわかるアート・アートからわかる脳 : 脳が生みだす美と想像力』（女子美術大学同窓会、2011年）
『脳は美をどう感じるか : アートの脳科学』（ちくま新書、2012年）
『美感 : 感と知の統合』（三浦佳世、横澤一彦との共著、勁草書房、2018年）

編書

『情動と言語・芸術 : 認知・表現の脳内メカニズム』（森悦朗との共編、朝倉書店、2018年）

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