巡航戦車 Mk.II

巡航戦車Mk.II（A10）：第二次世界大戦初期のイギリス戦車

巡航戦車Mk.II（A10）は、第二次世界大戦でイギリス軍が運用した巡航戦車です。ヴィッカース・アームストロング社が開発し、1938年から生産が始まりました。本車は、歩兵支援を目的とした中戦車A9の後継として開発され、装甲の強化が図られた点が大きな特徴です。しかし、その開発には様々な制約や背景が存在しました。

開発と生産：装甲強化と技術的課題

A10の開発は、中戦車A9の開発計画開始からわずか3ヶ月後の1934年5月に着手されました。当時のイギリス軍は、敵対戦車砲に対抗できる重装甲戦車を必要としており、ヴィッカース社はA9の装甲を強化することで迅速に対応しました。A9の装甲が最大14mmだったのに対し、A10は24mmから最終的に30mmまで増厚されました。

しかし、製造の容易さと高価な装甲鋼板の節約を優先するため、追加装甲は鋲接されました。これは、一枚板の装甲と比べて防御力が劣るというデメリットがありました。一方、歩兵支援用戦車の装甲厚に関するイギリス軍の要求は高まり続け、ヴィッカース社は、より強力な装甲を持つ歩兵戦車Mk.I マチルダI（A11）の開発も同時進行していました。

1936年、イギリス陸軍は戦車開発の方針を転換します。主力戦車を、軽装甲・高速の巡航戦車と重装甲・低速の歩兵戦車の2種類に分けて開発するという決定を下しました。最大装甲厚30mmのA10は、この新たな方針では巡航戦車としては不十分でした。そのため、A9を補佐する「重巡航戦車」という位置づけで生産されることになったのです。

A10は巡航戦車Mk.IIとして制式採用され、1938年に最初の発注が行われました。しかし、本格的な巡航戦車であるA13（巡航戦車Mk.III）の開発も並行して進められており、A9とA10はA13が量産体制に入るまでの繋ぎの役割を担いました。それでも、A10の量産車の納入は1939年末と、A13よりも遅れてしまいました。

A10の生産は、イギリス政府の戦車生産工場育成策に基づき、複数の企業に分散されました。ヴィッカース社が10両、メトロポリタン・キャメル社が45両、バーミンガム・レールウェイ・キャリッジ・アンド・ワゴン社が120両を生産しました。このうち30両は近接支援型のCS型でした。A10の生産においては、車体銃の搭載や機関銃の種類変更といった設計変更が繰り返され、複数のバージョンが存在することになります。

戦歴：フランス戦線から北アフリカ戦線へ

フランス戦線では、31両のMk.IIが第1機甲師団に配備されました。しかし、その戦闘での評価は芳しくありませんでした。出力不足による低速と、不整地走行能力の低さが大きな弱点として指摘されています。その後も、ギリシャ戦線や北アフリカ戦線で1941年末まで使用されましたが、大戦初期の戦車としては、その性能に限界が見られました。

まとめ：時代の要請と技術的制約

巡航戦車Mk.II（A10）は、当時のイギリス軍の戦車開発における技術的制約や時代の要請を反映した戦車と言えるでしょう。装甲強化の試みは成功したものの、設計変更の繰り返しや、量産体制の遅れなど、様々な課題を抱えていました。その結果、戦闘での評価は低く、短期的な繋ぎの役割にとどまりました。しかし、その存在は、後のイギリス戦車の開発に貴重な教訓を残したことでしょう。A10は、限られた資源と時間の中で、当時の技術水準を反映した、一つの試みだったと言えます。

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