工藤雅樹

工藤雅樹氏は、1937年岩手県に生まれ、東北地方の古代史、とりわけ蝦夷の歴史に深い造詣を持つ歴史学者、考古学者でした。

東北大学文学部史学科を卒業後、同大学院文学研究科博士課程を修了。その後、東北歴史資料館（現・東北歴史博物館）に勤務した後、宮城学院女子大学教授、そして1989年からは福島大学教授として長年にわたり後進の育成に尽力しました。2003年の福島大学退官後も、東北歴史博物館館長を務めるなど、研究活動は衰えることはありませんでした。

工藤氏の研究テーマは、主に東北地方、特に蝦夷の古代史に焦点を当てていました。蝦夷の人々の生活、文化、社会構造など、多角的な視点から古代蝦夷社会の解明に取り組みました。その研究成果は、数多くの論文や著書として発表され、日本の古代史研究に大きな貢献を果たしました。

特に注目すべきは、平泉の世界遺産登録に向けた工藤氏の尽力です。2004年から、平泉の世界遺産登録を目指した推薦書作成委員会委員長として、その登録活動の中枢を担いました。しかし、2008年には国際記念物遺跡会議から普遍的価値の証明が不十分との指摘を受け、登録は見送られました。それでも工藤氏は諦めず、2009年には修正された推薦書を完成させました。しかし、その直後に体調を崩し、2010年1月29日、胆嚢癌のため72歳で永眠されました。

工藤氏の死後、2011年6月26日、ユネスコは平泉を世界遺産に登録しました。これは、工藤氏をはじめとする多くの関係者の長年の努力の結晶であり、その功績は歴史に刻まれました。

工藤氏の研究は、単なる学術的な探求にとどまらず、地域社会への貢献にも繋がっています。平泉の世界遺産登録への取り組みは、その好例と言えるでしょう。また、工藤氏は一般向けの分かりやすい解説にも力を入れ、「歴史浪漫シリーズ」などを通して、古代史への関心を高める活動も積極的に行っていました。

主な論文として、『日本人起源論の史学史』『平泉藤原氏とその時代』『歴史浪漫シリーズ 北海道 その原風景とアイヌ文化への道』『歴史浪漫シリーズ 本州の「アイヌ語地名」』『歴史浪漫シリーズ 古代蝦夷を考える』『歴史浪漫シリーズ 北海道のアイヌ語地名』などがあります。これらの論文は、現代の古代史研究においても重要な資料となっています。

工藤雅樹氏の研究は、東北地方の古代史研究に大きな足跡を残しました。その業績は、後世の研究者たちに引き継がれ、発展していくことでしょう。彼の残した研究成果は、今後も多くの研究者や歴史愛好家にとって貴重な資料であり続けるでしょう。氏は、単なる研究者としてだけでなく、教育者、そして地域社会の発展に貢献した人物として、後世に長く記憶されるに値する存在です。

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、平泉の世界遺産地域の被災にも繋がりました。この大震災を乗り越え、平泉の世界遺産は、工藤氏の努力と地域住民の復興への強い意志によって、未来へと継承されていくことでしょう。

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