己卯士禍

己卯士禍の概要

己卯士禍（きぼうしか）は、1519年に李氏朝鮮中期に発生した一連の政治的事件を指します。主に士林派のリーダー、趙光祖（チョ・グァンジョ）を中心とした若手官僚たちが保守的な勲旧派によって失脚したことが特徴です。この事件は、発生年の干支に由来して名付けられ、犠牲となった儒者たちは「己卯名賢」として知られるようになりました。

事件の背景

1506年、暴政を振るっていた異母兄・燕山君に対する政変が起こり、中宗が国王に即位しました。しかし、初期の中宗は反正の功臣に圧迫され、政治的主導権を握ることができませんでした。1510年に功労者の朴元宗が死去した後、中宗は地方出身の若手士林派を起用し、新旧勢力のバランスを図ることで理想的な政治を目指しました。

そんな中で中宗の前に現れたのが趙光祖です。彼は1510年に進士試験に合格し、その豊かな知識と清廉な人柄で瞬く間に尊敬を集め、中宗の信任を得ました。趙光祖は短期間で司憲府の大司憲に昇進し、1515年から1519年にかけて急進的な改革を推進しました。

事件の経過

趙光祖は改革を進める中で1517年に昭格署の廃止や郷約の亜実施を実行しました。しかし、1519年には科挙に依存しない人材推薦制度である賢良科を実施し、勲旧派の強力な反対を招くことになりました。この改革が原因で彼らとの緊張が高まり、最終的には「偽勲削除事件」として知られる出来事が引き金となりました。これは中宗に対し、反正功臣の資格を剥奪するよう訴えるものでした。

南袞、沈貞、洪景舟などの勲旧派は趙光祖の朋党政治がもたらす害を訴え、中宗の心理を巧みに読み取りました。中宗は次第に趙光祖の改革に対して懐疑的な見方を持つようになり、事件発展後の11月、趙光祖とその仲間たちが国王に直訴するために座り込みを決行しましたが、かえって中宗の決断を促すことになりました。

中宗は趙光祖らを投獄すると、成均館で起こった生徒たちによる抗議行動が事態をさらに悪化させました。結果、趙光祖は流刑に処され、最終的に賜死に至ります。彼は38歳という若さでこの世を去り、辞世の詩には王への忠誠心が表現されました。

事件の影響

「己卯士禍」は士林派の思想とその政治的行動の本質が問われた重要な事件であり、石神派に対する深刻な影響を与えました。改革の失敗の理由は、成熟していない政治体制や、地方における上からの改革が受け入れられる土壌がまだ整っていなかったことなどが挙げられます。

趙光祖の理想主義的な道学政治は挫折を強いられましたが、その後の思想に大きく影響を与え、次世代の偉大な儒者たちによって新たな展開を遂げました。特に、宣祖の時代には士林派が権力を掌握し、趙光祖の功績が再評価されるようになりました。彼は後に、朝鮮性理学の正統な継承者として尊敬され、祀られる存在となったのです。

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