市司

市司（いちのつかさ）

市司は、律令制において京職に属する機関であり、都に置かれた東西の市場を管理・監督する役割を担っていました。東市司は左京職、西市司は右京職に属していました。

歴史

ヤマト王権時代には、交通の要所に成立した市場が政治的に利用されていました。『日本書紀』には「市司」という名称が登場しますが、当時の市司が王権の任命した官吏なのか、市場の代表者なのかは定かではありません。

藤原京の建設と大宝律令の施行後、都とは関係なく存在していた市場が都の中に集約され、東西の市が建設されました。『扶桑略記』や『帝王編年記』には、大宝3年（703年）に初めて東西の市が置かれたという記述があります。律令制における市司もこの頃に整備されたと考えられています。市司は、遷都のたびに市場とともに新しい都へと移動しました。

唐の制度では地方にも市司が置かれていましたが、日本では都のみに設置され、地方の市場は国司や地方豪族に委ねられていました。

職掌

市司は、東西の市場を監督し、不正や犯罪の防止、度量衡の管理、物価の監視などを行いました。また、必要に応じて公用の物資調達も担当しました。

特に重要な職務として、10日ごと（または毎月1度）に市場における物価を調査し、「估価帳」を作成して京職に提出することが義務付けられていました。估価帳は、物価を上中下の3段階に分け、さらに細かく高値・安値などを記録したもので、官が物資を買い上げる際の価格判断の資料として利用されました。

市司の長である市正（いちのかみ）は、本来は正六位上相当の官でしたが、実際には五位の実務官僚や、能力に応じて成功した者が任命されることが多く、財力や経済感覚に長けた人物が起用されていました。また、治安維持のため、検非違使の尉が兼務することもありました。

市司には、価格を検査する価長や、犯罪者を取り締まる物部などの伴部が置かれていました。

職員構成

正（正六位上相当）：東西各1名
佑（従七位下相当）：東西各1名
令史（大初位上相当）：東西各1名
史生：東西各2名（後に各1名）
価長：東西各5名
物部：東西各20名
使部：東西各10名（後に各6名）
直丁：東西各1名

参考文献

宮川麻紀『日本古代の交易と社会』（吉川弘文館、2020年）ISBN 978-4-642-04658-9
第Ⅰ部第一章「律令制における市の管理」（P12-42.原論文:2011年）
第Ⅰ部第二章「都城制と東西市」（P43-59.原論文:2012年）

関連項目

市町
估価法
名和長年
* 片桐且元

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