市営基町高層アパート

市営基町高層アパート：広島の復興と再生の象徴

市営基町高層アパートは、広島県広島市中区基町に位置する大規模集合住宅です。このアパートは、単なる住居群ではなく、広島の戦後復興の歴史と、そこに住む人々の生活が深く刻まれた場所です。本稿では、基町高層アパートの建設背景、独特な構造、そして現代における課題と活性化への取り組みについて解説します。

建設の背景：原爆スラムからの脱却

第二次世界大戦終戦後、広島は原子爆弾によって壊滅的な被害を受けました。基町一帯も例外ではなく、広島陸軍病院などの施設が破壊され、多くの人々が住む場所を失いました。戦後、緊急住宅対策として「十軒長屋」などが建設されましたが、住宅不足は深刻で、バラックの不法住宅が密集する「原爆スラム」と呼ばれる状況が生まれました。この地域では火災が頻発し、1967年には大規模な火災が発生するなど、住民の生活は非常に困難なものでした。

こうした状況を打開するため、広島市は基町地区の再開発を計画しました。当初は中央公園としての利用も検討されましたが、住宅不足の深刻さから、公営住宅の建設が決定されました。こうして、基町不良住宅街の解消を目的とした大規模な高層アパートの建設が始まったのです。

独特な構造：ル・コルビュジエの影響

基町高層アパートは、ただ単に住宅を供給するだけでなく、住環境の向上を目指した設計がなされました。設計を担当した大高正人は、ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオンに影響を受け、アパートを造成し緑地帯を創り出すというコンセプトを取り入れました。建物は「く」字型に配置され、南側を低く、北側に向かって高くすることで、日照権や景観に配慮しています。また、1階部分にはピロティ（解放部）を設け、2階以上の居住空間は、偶数階のみに通路を設けるスキップアクセス形式を採用することで、共用通路分の建蔽率を稼ぎました。

アパート内には、小学校、幼稚園、保育園、児童館などの教育・児童福祉施設、交番、消防署なども設置され、商業施設や銭湯なども整備されています。これは、アパート単体で都市を構成するという思想に基づいたもので、住民の生活をサポートする様々な機能が集約されています。

現代の課題と活性化への取り組み

建設から数十年が経過し、基町高層アパートは様々な課題に直面しています。塩害による建物の劣化、アクリル製バルコニー側面板による延焼問題、住宅水準向上による手狭化、住民の高齢化、アパート内商店のシャッター通り化など、解決すべき問題は山積しています。

広島市は、これらの課題に対応するため、様々な活性化プランを打ち出しています。外壁や共用部分の修繕、エレベータの近代化、住居面積の拡大などの改修工事に加え、屋上庭園を活用した「基町農園」や人工地盤での花壇・畑の整備、各種設備のバリアフリー化などが検討されています。

多様性を抱えるコミュニティ

基町高層アパートには、高齢者、障害者、中国残留日本人、在日韓国・朝鮮人など、様々な背景を持つ人々が暮らしています。高齢化率は広島市の他地区よりも高く、少子化による小学校の生徒数減少も課題となっています。しかし、多様な住民が暮らすコミュニティは、他の地域にはない魅力を持っています。

広島市は、こうした多様性を活かし、地域住民が主体的に参加できる活性化プランを推進することで、基町高層アパートを、誰もが安心して暮らせる魅力的なコミュニティとして再生することを目指しています。

まとめ：未来への展望

市営基町高層アパートは、広島の戦後復興の象徴であり、都市計画の先進的な事例です。現代においては、高齢化や建物の老朽化などの課題に直面していますが、広島市の積極的な活性化策によって、新たな未来への展望が開かれています。基町高層アパートが、多様な人々が共生し、安心して暮らせるコミュニティとして再生することを願っています。

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