市川・船橋戦争

市川・船橋戦争：戊辰戦争における南関東の激戦

市川・船橋戦争は、慶応4年（1868年）に現在の千葉県市川市と船橋市を舞台に繰り広げられた、戊辰戦争における重要な戦いの一つです。この戦いは、江戸城無血開城後の混乱期に、新政府軍と旧幕府軍残党との間で発生しました。ここでは、この戦いの背景、経過、そしてその後の影響について詳しく見ていきましょう。

戦争の背景：旧幕府軍の脱走と新政府軍の対応

江戸城開城後、旧幕府軍の一部は新政府の処置に不満を抱き、江戸を脱走しました。榎本武揚は海軍を率いて館山へ、大鳥圭介は陸軍を率いて市川へ、そして福田道直は撒兵隊を率いて木更津へとそれぞれ向かいました。この中で、福田が率いる撒兵隊は、当初市川にいた大鳥隊との連携を目指しましたが、大鳥隊は既に日光方面へ移動していました。このため、撒兵隊は孤立し、新政府軍との対立を深めることになります。

新政府軍は、撒兵隊の出現を予想外の事態と捉え、直ちに武装解除を求めました。しかし、撒兵隊内部の強硬派は武装解除を拒否。これが戦闘へと発展する大きな要因となりました。新政府軍は市川周辺に兵力を集結させ、撒兵隊への攻撃準備を進めました。

戦闘の経過：市川・船橋での激戦

閏4月3日早朝、撒兵隊は新政府軍の陣地を攻撃し、市川・船橋戦争が始まりました。初期段階では、撒兵隊の奇襲により新政府軍は混乱し、市川の街は炎上しました。しかし、新政府軍は直ちに反撃を開始し、増援部隊が到着すると戦況は一変。撒兵隊は船橋へ撤退を余儀なくされました。

撤退する撒兵隊を追撃するため、佐土原藩の部隊は船橋へ進軍しましたが、そこで撒兵隊の別働隊と遭遇。馬込沢や夏見周辺で激しい戦闘が繰り広げられました。この戦闘は、両軍にとって想定外の展開となり、佐土原藩軍は単独で船橋市街に突入することとなりました。

船橋大神宮周辺では、佐土原藩軍と撒兵隊が激突しました。特に「宮坂」と呼ばれる場所では激しい戦闘が繰り広げられましたが、船橋大神宮が砲撃により炎上し、撒兵隊は総崩れとなりました。さらに、新政府軍の別働隊が船橋への連絡路を遮断したことで、撤退する撒兵隊は挟撃され、壊滅状態となりました。市街地も火災に見舞われ、船橋は大きな被害を受けました。

戦争の影響とその後

市川・船橋戦争は、新政府軍の勝利に終わり、旧幕府勢力の江戸奪還の動きを完全に封じました。この勝利は、新政府の権威を確立し、関東地方の諸藩を新政府へ恭順させる上で大きな意義を持ちました。

戦後、新政府は被災地への見舞金を支給し、住民の不満を鎮静化させました。また、この戦いで負傷し、取り残された江原鋳三郎は、後に新政府に投降し、政治家・教育者として活躍しました。

さらに、この戦いで船橋の漁師町に伝わる神輿や山車が焼失し、祭りが途絶えていましたが、明治時代末期には祭りが再興され、現在の船橋の伝統行事として継承されています。

市川・船橋戦争は、戊辰戦争の中でも特に地域住民に大きな影響を与えた戦いでした。この戦いは、単なる武力衝突に留まらず、その後の地域の復興や文化形成にも深く関わることとなりました。

参考資料

『市川市史 第2巻』（吉川弘文館、1974年）ISBN 4642015523
『市川市史 第3巻』（吉川弘文館、1975年）ISBN 4642015531
『船橋市史 近世編』（船橋市役所、1998年）

関連作品

東郷隆　『下総市川宿の戦い』(『我餓狼と化す』実業之日本社文庫　収録)

関連項目

戊辰戦争
五井戦争
* 江原素六

もう一度検索