五井戦争

五井戦争：房総における戊辰戦争最後の戦い

五井戦争は、慶応4年（1868年）閏4月6日から7日にかけて、現在の千葉県市原市五井周辺で繰り広げられた戦いです。市川・船橋戦争で敗走した幕府軍の一隊と、追撃する新政府軍が激突し、房総における戊辰戦争の終結を決定づけました。

戦闘の経緯

市川・船橋戦争で敗れた幕府軍は、上総方面へ南下。新政府軍はこれを追撃し、閏4月6日には千葉（蘇我）まで進軍しました。その夜、上総国八幡（現在の市原市）付近で薩摩藩兵2名が幕府軍に殺害される事件が発生し、翌7日、養老川を挟んで両軍が対峙、五井戦争が勃発しました。

幕府軍は、養老川の渡河地点を確保するため、地元住民に渡船場の保持を命じました。一方、新政府軍は三方面に分かれて進軍しました。

右翼隊: 岡山藩兵と大村藩兵の一部が担当。本道から西側の海岸沿いを進み、敵に接近しました。
中央隊: 薩摩藩兵、長州藩兵、大村藩兵が担当。村田川沿いに展開する幕府軍を攻撃するため、浜野東方周辺に展開し前進しました。
* 左翼隊: 津藩兵が担当。東部台地上を本道と並行する形で、養老川上流の権現堂へ向かいました。

緒戦において、幕府軍は頑強な抵抗を見せず、徐々に養老川の線まで後退しました。新政府軍はこれを追撃し、養老川右岸に進撃しましたが、幕府軍はここでやや強力な抵抗を展開しました。しかし、新政府軍右翼隊の大村藩兵が渡河を敢行し、養老川左岸から幕府軍を側面攻撃すると、幕府軍は崩壊し退却を開始しました。

勢いに乗った新政府軍は、姉ヶ崎東方の高地へ攻撃を開始。薩摩藩兵を中心とする部隊が本道正面の旧幕府軍に向かい、姉ヶ崎市街方面へと進軍しました。遅れて戦場に到着した佐土原藩兵は、岡山藩兵と合流し左翼隊を形成。台地中央へ向かって前進しましたが、姉ヶ崎は義軍府の根拠地であったため、容易には攻略できませんでした。

義軍府側の守備は堅固でしたが、大砲はわずか2門しかなく、砲兵の不足が深刻でした。一方、新政府軍は薩摩藩だけで5門の大砲と臼砲を投入し、佐土原藩と岡山藩も大砲を装備していました。遮蔽物のない開けた地形も災いし、幕府軍は新政府軍の砲撃に翻弄され、精鋭とされた撤兵隊も無力でした。

最終的に、新政府軍は姉ヶ崎の義軍府陣地を陥落させ、権現堂方面へ進軍していた津藩兵も幕府軍を撃破し、姉ヶ崎東方の北面高地を占領しました。

この戦いにおける新政府軍側の損害は、戦死1名、戦傷者28名程度と軽微でしたが、幕府軍側の損害は戦死50～60名、戦傷者140～150名と壊滅的なものでした。

戦後

閏4月8日、新政府軍は義軍府の拠点である木更津と真里谷へ攻撃を開始。しかし、木更津には既に徳川義軍の姿はなく、義軍府の主力は海上に逃亡し、一部は榎本武揚の艦隊に合流しました。真里谷へ向かった岡山藩兵と津藩兵は、真如寺を幕府軍が再び根拠地として利用することを懸念し、焼却しました。

一方、義軍府総大将の福田八郎右衛門道直の戦後の動向は不明です。真里谷に駐屯していた義軍は、下総国小見川の鹿島神宮社へ屯集していたところを説諭され、武装解除の上、江戸へ連行されました。撤兵隊指図役頭取の仙石釩三郎率いる部隊は日光山へ向かいましたが、宇都宮付近が新政府軍に占領されていることを知り迂回。しかし、那珂川左岸で奇襲を受け、散り散りになりました。

こうして徳川義軍は壊滅し、房総は新政府軍によって平定されました。五井戦争は、市川・船橋戦争から始まった房総における一連の戦いの終結を告げるものでした。徳川義軍の敗因としては、義軍府側の首脳部に確固たる人材がおらず、精鋭とされた撤兵隊も戦意に乏しかったことが挙げられます。一部は箱館戦争まで抗戦しましたが、徳川義軍府の主力による反抗は、五井戦争以降完全に不可能となりました。

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