市川秀雄

市川秀雄（いちかわ ひでお）は、1901年7月27日に生まれ、1964年10月31日にその生涯を閉じた日本の著名な法学者です。彼の専門分野は刑法学と労働法学に及びましたが、特にドイツ刑法に関する造詣が深いことで知られています。

東京都出身の市川は、明治天皇の侍医を務めた市川賢亮の三男として生を受けました。教育は独逸学協会中学校（現在の獨協中学校・高等学校）で受けた後、第一高等学校を経て、1930年に東京帝国大学法学部を卒業しました。さらに法学への探求を深めるため、同学大学院法学研究科に進学し、1932年に修了しています。

法学者としてのキャリアを歩む一方で、少年保護司としても活動しました。教育者としては、1942年に中央大学法学部専任講師に就任したことから始まり、1946年には同大学の教授に昇進しました。中央大学では長年にわたり教鞭を執り、多くの学生や研究者を指導しました。彼の研究活動は実を結び、1961年には中央大学より博士（法学）の学位を取得しています。この時の博士論文の題目は「刑法における市民法思想と社会法思想」であり、彼の刑法思想の一端を示す重要な研究成果です。

大学での研究・教育活動に加え、市川は社会の様々な分野でその専門知識を活かしました。東京都地方労働委員会委員や労働省東京地方労働基準審議会委員といった公的な役職を務め、労働問題に関連する法的な課題解決に貢献しました。また、学会活動にも熱心で、1949年から逝去する1964年まで日本刑法学会の理事を務め、同学会の運営と発展に尽力しました。さらに、労働法学の分野では、1950年に労働法学会の創立準備委員の一人として設立に貢献しています。教育行政の分野にも関わり、1952年には母校である獨協中学校・高等学校の校長を務め、後に名誉校長にも就任しました。

彼の法学研究の成果は、多くの著作として世に問われました。主要な著作としては、専門分野の体系的な解説書である『刑法學（法律學全書 8）』（1949年、評論社）や、『刑法總論』（1955年、春秋社）があります。また、法学を学ぶ人々への入門書として『法律的ものの考え方 : 入門法学十三講』（1962年、評論社）を著し、その分かりやすい解説は多くの読者に受け入れられました。没後には、海外の学界動向を紹介する『法の動き : 海外学界消息』（1965年、評論社）が出版されています。

教育者として、市川は後進の育成にも力を注ぎました。彼の門下生からは、中央大学名誉教授となった藤本哲也氏のような著名な法学者を輩出しています。

市川秀雄は、法学者、教育者、そして社会活動家として、多方面にわたり日本の法学界とその周辺分野に大きな足跡を残しました。1964年10月30日、中央大学在職中に63歳で逝去しましたが、その功績は今日においても語り継がれています。逝去後、中央大学より名誉教授の称号が贈られ、彼の貢献が改めて称えられました。

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