市村今朝蔵

市村今朝蔵：知性と交流を体現した政治学者

市村今朝蔵（1898年10月8日 - 1950年6月9日）は、日本の政治学者であり、同時に地主としても活動しました。彼の生涯は、教育者としての側面、知識人との交流、そして社会への貢献という多岐にわたる活動によって彩られています。

生い立ちと学歴

市村は長野県北佐久郡東長倉村（現在の軽井沢町）で生まれました。父は雨宮敬次郎の妻の末弟である市村藤吉です。旧制上田中学を経て、早稲田大学政治経済学部を卒業しました。学生時代には大山郁夫に師事し、また、親友の我妻栄とともにシカゴ大学で学びました。1923年には山岡製紙工場の娘・きよじと結婚。二人の間には娘が3人おり、次女の信江は建築家の三輪正弘と、三女の令子は我妻洋と結婚しました。

教育者としてのキャリア

市村は、欧米への遊学後、日本女子大学と早稲田大学で教鞭を執りました。特に日本女子大学では長年にわたり教授を務め、後進の育成に尽力しました。1950年4月には早稲田大学教授に就任しましたが、そのわずか2ヶ月後の6月9日、講義中に脳溢血で倒れ、急逝しました。彼の葬儀は、早稲田大学政治経済部葬として執り行われました。

軽井沢「友達の村」の創設

市村は軽井沢の大地主であり、別荘地の開拓にも力を注ぎました。1932年には、松本重治、蠟山政道、我妻栄らとともに、軽井沢南原に学者仲間を集めた別荘地「友達の村」を創設しました。この村には、当時の日本の知識人が集まり、子供たちも参加。そこで育った子供たちの中から、現代の日本でリーダーとして活躍する人々も輩出しました。この別荘コミュニティは、「財団法人軽井沢南原文化会」として現在も存続しています。

市村が近衛文麿から譲り受けた洋館別荘は、後に離山麓に移築され、「市村記念館」として一般公開されています。

クーデンホーフ＝カレルギー伯爵との関わり

市村は、欧州統合の先駆者であるリヒャルト・ニコラウス・クーデンホーフ＝カレルギー伯爵の著書『The Totalitarian State against Man』の英訳版を、鳩山一郎に翻訳を依頼しました。市村が松本重治から借りていたこの本は、市村の死後、鳩山によって『自由と人生』として出版されました。この出来事は、市村と鳩山、そして鹿島守之助博士（鹿島建設）とクーデンホーフ＝カレルギー伯爵との関係を繋ぐきっかけとなりました。

主な著書

市村は、その生涯で多数の著書を執筆しました。主なものとして以下があります。

『近世政治思想史 フランス革命ヨリロシヤ革命マデ』(1927年)
『再組織された英国の経済』(1939年)
『英国の憲法』(1946年)
『英国に於ける憲政の理論と実践 国王篇』(1948年)
『政治概論』(1949年-1951年)
『英国政党論』(1949年)
『日本国憲法』(1950年)
『英国憲政の理論と実践 内閣篇』(1952年)
* 『英国憲政の理論と実践 行政篇』(1954年)


これらの著書は、彼の政治思想と研究に対する深い理解を示しており、今日においても重要な文献として参照されています。また、ラスキーの『政治学範典』やジェニングスの『西ヨーロッパ聯邦論』といった海外の著作の翻訳も手がけました。

まとめ

市村今朝蔵は、教育者、学者、そして地主として、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。軽井沢の別荘地「友達の村」を創設し、多くの知識人との交流を深めました。彼の学術的な貢献、知識人との交流、そして社会への貢献は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。彼の生涯は、知性と社会活動が融合した理想的な生き方を示唆していると言えるでしょう。

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