市村和昭

市村 和昭（いちむら かずあき）

1957年8月11日、長野県軽井沢町に生まれた市村和昭は、希有なキャリアを歩んだアスリートである。厳冬の長野で育った彼はスピードスケートの世界で頭角を現し、世界の舞台に立った後、プロ競輪選手へと転身。二つの異なる競技で活動した彼の経歴は、スポーツ界において特筆すべきものと言える。

長野県軽井沢高等学校を経て明治大学で学んだ市村は、学生時代からスピードスケート選手として顕著な成績を収めていた。

スピードスケートでの輝かしい時代

高校在学中の1975年には、全国高等学校総合体育大会において、500メートルと1500メートルの二種目で頂点に立った。翌1976年にも同大会の500メートルで連覇を達成するなど、高校生年代の国内では敵なしの存在となる。大学に進学してからもその勢いは衰えず、1979年と1980年には全日本スプリントスピードスケート選手権大会で総合2連覇を成し遂げ、国内スプリント界の第一人者としての地位を確立した。

これらの実績が評価され、1980年に開催されたレークプラシッドオリンピックに日本代表として出場する機会を得た。世界の強豪が集う舞台で、彼は500メートルで20位、1000メートルで25位という成績を残し、オリンピアンとしての足跡を刻んだ。このオリンピック出場は、スピードスケート選手としてのキャリアにおける一つの到達点であった。

競輪界への異例の転身

レークプラシッドオリンピックを終えた後、市村は周囲を驚かせる決断を下す。スピードスケート選手としてのキャリアを終え、自転車競技である競輪の世界への転身を目指したのである。当時、スピードスケート選手が競輪選手になるというケースはほとんど前例がなく、彼の異例の決断は大きな話題を呼んだ。

1980年、日本競輪学校に第48期生として入学。厳しい訓練を経て、プロ競輪選手への道を切り拓いた。競輪選手としての登録地は、当初は東京であったが、後に故郷である長野へと移している。

競輪選手としての歩み

競輪選手としてのデビュー戦は、1981年10月27日、大宮競輪場であった。この初陣を飾り、見事に1着でゴール。鮮烈なデビューを飾った。プロ転向後、1982年から1993年頃にかけては、競輪界の主要なビッグレースにも度々参戦を果たした。しかし、スピードスケート時代のような目覚ましいタイトル獲得や特筆すべき成績を残すまでには至らなかったものの、プロ選手として長きにわたり競輪界で活躍を続けた。

市村のキャリアは、後進にも影響を与えている。彼の薫陶を受けた主な弟子の中には、彼自身と同じくスピードスケートから競輪選手へと転じた伊藤大理（85期）や上原龍（95期）が名を連ねている。これは、冬期競技からの転身という彼のパイオニア精神が、後の世代に受け継がれていることを示唆している。

最終的に、市村和昭は2014年1月7日付けで現役を引退した。スピードスケート選手として世界の舞台に立ち、その後競輪選手としてプロキャリアを歩んだ彼の人生は、まさに「二刀流」と呼ぶにふさわしい、挑戦と変化に満ちたものであった。

彼のキャリアは、異なる分野へ飛び込む勇気、そしてプロフェッショナルとして一つの道を極めることの難しさと尊さを体現していると言えるだろう。

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