市橋村 (岐阜県稲葉郡)

市橋村（いちはしむら）

岐阜県稲葉郡に、かつて存在した村、それが市橋村（いちはしむら）です。この村は昭和期に岐阜市へと編入され、現在はその名称を廃しています。現在の岐阜市において、南西部に位置する一帯が、かつての市橋村の領域に当たります。具体的には、現在の地名である市橋、今嶺、西荘、薮田、下奈良などが、往時の村を構成していた地区に名を連ねています。

村の名の起源は、この地に中世から存在したとされる荘園「市橋荘」に由来すると伝えられています。古い荘園の名が、時代を経て村の名として引き継がれたのです。

その歴史を遡ると、江戸時代末期には美濃国厚見郡の一部でした。当時のこの地域は、領主が複数に分かれており、現在の西荘、爪村、下奈良、今嶺といった集落は加納藩の領地であり、一方の薮田村は旗本が治める領地でした。それぞれの集落が異なる支配を受けていた時代があったのです。

明治時代の地方制度改革において、大きな変化が訪れます。1897年（明治30年）4月1日、厚見郡は、各務郡、方県郡の一部と合併し、新たに稲葉郡が誕生しました。そして、その同じ日、厚見郡に属していた今嶺村、爪村、西庄村、薮田村、下奈良村の五つの村が集まり、合併して「市橋村」が発足したのです。これが、稲葉郡市橋村としての歴史の始まりとなります。

市橋村は、その後半世紀余りにわたり存続しました。しかし、1950年（昭和25年）8月20日、市橋村はその歴史に幕を閉じ、岐阜市へと編入されました。これにより、市橋村という行政単位は消滅しましたが、その区域は岐阜市の一部として引き継がれました。

岐阜市に編入された当初、旧市橋村の区域は広大な田園地帯が広がるのどかな風景が中心でした。しかし、時代の流れとともに開発が進みます。特に大きな転換点となったのは、1966年（昭和41年）に岐阜県庁舎がこの地に移転新築されたことです。県の中枢機能が移ってきたことで、周辺地域の開発が急速に進展しました。東海道本線には新たに西岐阜駅が開業し、交通の便が飛躍的に向上しました。また、県民ふれあい会館のような公共施設も整備され、かつての田園風景は近代的な都市景観へと変貌を遂げていきました。現在も、この地域は岐阜市の重要な一部として発展を続けています。

教育機関としては、村立の小学校として市橋村立市橋小学校がありました。この学校は村の消滅後、岐阜市立市橋小学校として現在も地域の子どもたちの学び舎となっています。一方、中学校については、村内には存在しなかったため、当時の鏡島村にあった学校組合立精華中学校（現在の岐阜市立精華中学校）へ通学していました。

市橋村の名称は行政上は消滅しましたが、現在の地名としてその名残が残されており、かつてこの地に村が存在した記憶をとどめています。その歴史を知ることは、現在の岐阜市南西部の成り立ちを理解する上で重要な手がかりとなります。

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