布張り窓の聖母

布張り窓の聖母

『布張り窓の聖母』、正式には『聖母子と聖エリサベト、マグダラのマリア、洗礼者ヨハネ』は、盛期ルネサンス期の巨匠ラファエロ・サンツィオによって1511年から1512年にかけて制作された油彩画です。この絵画はフィレンツェの貴族で教皇庁の有力な銀行家であるビンド・アルトヴィーティの発注によるもので、現在はフィレンツェのパラティーナ美術館に所蔵されています。

制作の背景

ヴァザーリの記録によれば、ビンド・アルトヴィーティは父アントニオ・アルトヴィーティの後を継いで銀行業を営む一方、芸術のパトロンとしても知られていた。ビンドは優れた公私の教養を持つ人物で、教皇インノケンティウス8世の姪と結婚し、フィレンツェの名門であるソデリーニ家と結びつくなど、影響力を持ちました。本作品は彼の結婚を記念してラファエロに依頼されたと考えられています。

作品の内容

絵画の中心には聖母マリアと幼児イエス・キリストが描かれています。マリアは洗礼者ヨハネと二人の聖女たちに囲まれ、聖エリサベトにキリストを抱いてもらおうとしています。幼いキリストは聖母にしがみつきながら、聖女の腕の上に安らかに座っています。この嬉しそうな場面は、キリストの明るい性格を反映し、見た人々に笑顔を呼び起こします。洗礼者ヨハネは、画面の隅で視線を向け、微笑むような姿勢で描かれ、観る者との交情を感じさせます。

室内の描写はシンプルでありながら、柔らかな光が布で覆われた窓から差し込み、絵画に温かみを与えています。絵画は古代の彫刻やミケランジェロの作品に影響されており、衣服の流れるような表現や豊かな色彩が特徴的です。若い聖女の姿には多様な解釈があり、彼女の装飾や表情は見る者に留まる印象を与えます。

制作過程

作品の構図はラファエロの独創的なアイデアによるものであり、助手たちの手も加わっています。ラファエロは生涯で最も多忙だった1510年代半ばに、この作品の制作に取り組みました。過去の修復や科学調査によって、作品の途中での構図の変更も明らかになっています。例えば、もともとは聖ヨセフが描かれていた位置に洗礼者ヨハネが後に描き加えられたことが判明しました。

制作年代と来歴

本作品の制作年代はロイヤル・コレクションとシュテーデル美術館の準備素描との類似から、1512年頃と考えられています。完成した作品は1515年ごろにビンド家に送られましたが、ビンドの政治的な状況から作品はメディチ家に押収され、様々なコレクションを経て、現在の所蔵先に至ります。

素描と複製

準備素描はイギリスのロイヤル・コレクションやベルリンの国立版画素描館に保存されています。ラファエロの手によるこの素描は、作品の構成過程やアイデアを探る重要な遺産です。また、メディチ家の礼拝堂やサント・スピリト聖堂内にも本作品の複製があります。

このように『布張り窓の聖母』は、ラファエロの技術と美的感性が融合した重要な作品であり、ルネサンス美術の中でも特に高く評価されています。

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