帝国主義下の台湾

矢内原忠雄『帝国主義下の台湾』

『帝国主義下の台湾』（1929年）は、東京帝国大学教授・矢内原忠雄が日本統治下の台湾を視察し、その経済構造と社会構造を分析した著作です。植民地政策を経済的視点から批判的に考察した内容が、当時の台湾社会に大きな影響を与えましたが、一方で発禁処分を受けることにもなりました。

時代背景と本書執筆の動機

1895年の下関条約により日本領となった台湾では、日本の同化政策が進められました。しかし、1915年の西来庵事件や民族主義の高揚を背景に、台湾議会設置運動などの政治運動も活発化していました。

矢内原は、本書の序文で「虐げらるゝものゝ解放、沈めるものゝ向上、而して自主独立なるものゝ平和的統合」への願いを表明しています。日本の植民地支配下で苦しむ台湾の人々を解放したいという強い思いが、本書執筆の動機となりました。

本書の構成と内容

本書は、第一篇「帝国主義下の台湾」と第二篇「台湾糖業帝国主義」の二部構成となっています。

第一篇「帝国主義下の台湾」

台湾の領有から始まり、資本主義化の過程、財政、階級関係、そして日本帝国主義における台湾の地位について論じています。特に、「台湾の資本主義化」では、土地問題、権度・貨幣制度の改革、日本資本の進出、台湾人の無産化などが詳細に分析されています。

第二篇「台湾糖業帝国主義」

台湾糖業の発展、新式工場の勝利、混合企業形態、地域的発展、糖業連合会、販売・金融、カルテル内部の争覇、利潤の源泉地、蔗農、農民組合などについて論じています。特に、「米糖相克」問題では、蔗作地と水田耕作地の対立が取り上げられています。

本書の評価と批判

台湾出身の学者である涂照彦教授は、本書の理論的業績として、以下の3点を挙げています。

1. 植民地領有に当たっての日本資本主義の歴史的性格を明らかにしたこと
2. 台湾の資本主義化過程における日本の国家権力の活動とその性格を、日本資本の台湾制覇との関連で、実態に即応して冷徹に考察したこと
3. 台湾の植民地経済過程を体系的に把握したこと

一方で、本書では台湾の民族資本の形成とその役割が十分に論じられていないという批判もあります。

本書の移入販売禁止処分

本書は、台湾の人々に歓迎された一方で、台湾総督府によって移入販売禁止処分を受けました。その理由は、本書が台湾の資本主義的植民政策を批判し、政治・教育・民族運動等に言及し、蔡培火の統治批判の書を肯定的に紹介していること、林本源製糖株式会社の設立過程や台湾の教育事情を批判的に論じていることなどが挙げられています。

結論

『帝国主義下の台湾』は、日本の植民地支配下の台湾の経済構造と社会構造を詳細に分析した著作であり、台湾研究における重要な文献として位置づけられています。本書を読むことで、当時の台湾社会の状況や、植民地支配がもたらした影響について深く理解することができます。

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