西来庵事件

西来庵事件（せいらいあんじけん）とは

西来庵事件は、1915年（大正4年）に日本統治下の台湾、台南庁噍吧哖（現在の玉井）で発生した大規模な抗日武装蜂起です。この事件は、その発生地から「タパニー事件」、首謀者の名前から「余清芳事件」とも呼ばれています。本島人による最後の組織的な抗日武装蜂起として、台湾史において重要な位置を占めています。

事件の背景

事件の首謀者である余清芳は、元台湾総督府警察の警察官でした。警察を退職後、彼は保険勧誘員などを経て日本本土に渡り、横浜に滞在します。当時、横浜には大逆事件を逃れた無政府主義者たちが集まっており、余清芳は彼らと交流を持つ中で、幸徳秋水らの直接行動主義的なアナキズムに影響を受けました。

蜂起の準備

台湾に戻った余清芳は、幼馴染の羅新君が住職を務める西来庵を拠点とし、台湾独立のための戦いを決意します。彼は村落内で相互扶助の組織を作り、「大明慈悲国」というユートピア思想を広め、同志を増やしていきました。この運動は台湾全土に広がり、大きな勢力となっていきました。

武装蜂起

1915年、基隆で同志が逮捕されたことから、計画が日本側に発覚します。余清芳一党は、急遽山間部に逃れ、ゲリラ戦を展開しました。余清芳は自らを「大明慈悲国奉旨平台征伐天下大元帥余」と名乗り、羅新君が発行した「五福王爺」という守り札を身につけて戦いました。この蜂起は宗教的な色彩が強く、ゲリラ部隊は各地の警察署や分署を襲撃し、日本人95人が殺害されました。

日本側の鎮圧とその後

日本政府は事態を重く見て、内地から一個師団を増援として派遣し、反乱の鎮圧に乗り出します。その結果、余清芳らは逮捕され、事件に関連して逮捕された人数は1957人に達しました。裁判の結果、866人に死刑判決が下されましたが、これはあまりにも多いため、実際に処刑されたのは被害者と同数の95人（資料によっては132人）でした。残りの死刑囚は、大正天皇の即位記念恩赦により減刑されました。

事件の影響と歴史的意義

西来庵事件は、日本統治下の台湾において、台湾人の独立への強い意志を示す出来事でした。この事件は、台湾の抗日運動における重要な転換点となり、後の台湾独立運動にも大きな影響を与えました。この事件で使われた「大明慈悲国」という思想は、当時の台湾人の精神的な支えとなり、彼らの団結を促しました。

この事件は、単なる武力衝突としてだけでなく、植民地支配に対する抵抗運動として、その歴史的意義を深く理解する必要があります。

参考文献

松下芳男『暴徒鎮圧史』柏書房、1977年
古野直也『台湾軍司令部 1895-1945』国書刊行会、1991年

関連項目

大明慈悲国
台湾抗日運動
* 余清芳

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