帰真園

帰真園（きしんえん）は、東京都世田谷区の二子玉川公園内にある日本庭園です。平成25年（2013年）4月14日に開園し、約5,800平方メートル（約1,760坪）の広さを持つこの庭園は、多摩川の自然景観と、歴史ある旧清水邸書院の風情が融合した空間を提供しています。

庭園の設計は地形を巧みに活かしており、西側の山側は石組や山野草の斜面、東側の谷側は苔庭とカエデ林が配され、季節ごとに印象が変化するスロープが特徴です。多摩川の最下流部と旧清水邸書院の玄関棟に挟まれたエリアでは、公園との境界を高生垣で遮ることで、内部の静寂を保っています。この高生垣の足元には、小振りの景石や四季の名石を用いた階段、宿根草が配され、趣深い景観が生まれています。旧清水邸書院から西を望むと、水中のカキツバタや石組上のヤマブキが重なり、その先の園路沿いにはウメやハナウメが彩りを添えます。

庭園西側には高層マンションがありますが、これを遮るためマツが連続して植えられています。これらのマツは適度に剪定されており、水面方向への眺めが確保されています。園内の六郷道沿いには、石灯籠や石船が配置され、景観にアクセントを加えています。

多摩川東岸に位置する「二子帰帆河岸」は、庭園の見どころの一つである視点場です。東西に広くとることで、車椅子利用者もゆったりと富士山方面を眺めることができるよう配慮されています。南北に長く設けられているため、移動しながら西方への眺望の変化を楽しむことができます。この設計のコンセプトには、江戸時代の名園「蓬莱園」に見られる切石による直線護岸の美意識が影響しています。

庭園の水景も魅力的で、南側の崖線水や湧き水が流れ落ちる部分には、斜めに水が落ちる背落ち部が設けられ、水の音によっても景観を楽しめる工夫が凝らされています。水流には玉石が自然になじむように敷き込まれています。

高層マンション対策として、旧清水邸書院の北側には人工の島が築かれマツが植栽されています。「八筋の滝」もマツの枝越しに見えるよう、定期的な剪定によって維持されています。園内には、四つ目垣、偕楽園垣、不二垣など様々な種類の垣根が設置されており、それぞれに意匠が凝らされています。特に偕楽園垣は「江戸東京関東」という庭園のコンセプトを反映し、不二垣は「不二」の文字を象徴するデザインです。

庭園内に移築された旧清水邸書院は、明治時代に建てられ、大正期を経て平成25年に現在地に移築、同年に世田谷区登録有形文化財に登録されました。明治建築の特徴を持つ書院の庭には、マツやモミジ、サルスベリ、ボタンなど多様な植物が植えられています。旧清水邸書院は毎週日曜日に開館しています。

庭園全体の設計思想として、高生垣で公園との境界を明確にし、狭い空間に高さを与える工夫、小崖線で地域の自然景観を表現する試みがあります。東西の狭さを南北の長さとおおらかな曲線で補い、空間の広がりを演出しています。これは直線的な二子帰帆河岸との対比と調和を意図しています。内景観は芝生で背景の公園や国分寺崖線を借景とし、外景観は低木の寄せ植えで季節の変化を見せます。

帰真園の作庭は、進士五十八氏らの監修のもと、高崎康隆氏が作庭・設計施工監理、株式会社戸田芳樹風景計画が設計を担当しました。園名の揮毫は書家の小田川大岳氏によるものです。

この庭園は無料で入園でき、開園時間は3月から10月が午前9時から午後5時、11月から2月が午前9時から午後4時30分です。毎週火曜日と年末年始は休園です。問い合わせは二子玉川公園ビジターセンターなどへ。帰真園は、多摩川沿いの恵まれた立地を活かし、自然、歴史、芸術が調和した、静かで美しい空間を提供しています。

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