帰還兵はなぜ自殺するのか

書籍『帰還兵はなぜ自殺するのか』の概要

デイヴィッド・フィンケルのノンフィクション書籍『帰還兵はなぜ自殺するのか』（原題: Thank You for Your Service）は、瞬間的な戦場の恐怖だけでなく、その後の人生における帰還兵たちの苦悩に焦点を当てています。2015年に亜紀書房から刊行され、多くの読者に衝撃を与える作品です。

取材の経緯

著者は2007年4月にイラクのバグダッドで活動するアメリカ陸軍第16歩兵連隊第2大隊の取材を開始しました。運命的な一年を経た後、フィンケルは戦場での体験を『兵士は戦場で何を見たのか』という本にまとめ、戦争取材は一旦終了するかのように思われました。しかし、彼の元には帰還した兵士たちから、戦後の苦しみについての訴えが寄せられます。この声に導かれ、フィンケルは2013年に再び取材を行う決意を固めました。

本書の内容

本書では、イラク戦争に従軍したアメリカ陸軍の帰還兵5人を中心に、それぞれの戦争体験や、その後の人生の苦闘が描かれています。物語は厳密に三人称で構成され、感情や筆者の意見を排除した客観的な視点から展開されます。これにより、読者は兵士たちの苦しみを生々しく感じ取ることができるのです。

原題の「Thank You for Your Service」は、兵士への感謝の意を表す言葉であり、戦争に奉仕した者たちへの敬意が込められています。しかし、帰還後の彼らの精神的な戦いが存在することを、フィンケルはしっかりと伝えます。この本は、2013年度全米批評家協会賞ノンフィクション部門の最終選考にも名を連ねています。

登場する兵士たち

アダム・シューマン

アダムは下士官として勇敢に戦いましたが、戦争から帰国後、心的外傷後ストレス障害（PTSD）と外傷性脳損傷（TBI）に悩まされます。退役後も彼の心の痛みは癒えることなく、家族との関係にも影響を及ぼしています。

トーソロ・アイアティ

アダムと同じく、トーソロも戦場での出来事が心に深い傷を残しました。一人の兵士を助けたいという思いから、彼は自身の命を危険に晒した結果、戦友を救えなかった後悔に苛まれています。彼の心の中には、助けられなかった友の幻影が常に影を落とします。

ニック・デニーノ

ニックはイラクでの暴力行為の記憶に襲われ、精神病院での治療を受けて再生を試みます。彼の物語は、イラク戦争がもたらした心の傷と、その影響を強く浮き彫りにしています。

マイケル・エモリー

アダムの部下の一人であるマイケルは、危険な戦闘で重傷を負い、身体に障害を抱えたまま生き続けます。彼の存在は、戦争の現実を象徴する一例と言えるでしょう。

ジェームズ・ドスター

アダムが特にかわいがっていた部下で、IED攻撃によって命を落とします。彼の死は、アダムにとって忘れられないトラウマとなります。

アダムの祖父

第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争での経験を持つアダムの祖父も、戦争の重みを知る人物です。彼は多くのことを語りませんが、その静かな強さが影響を与えています。

映画化

本書は2017年に映画としても制作されました。監督は映画『アメリカン・スナイパー』の脚本家を務めたジェイソン・ホールが担当し、作品は観客に強いメッセージを届けました。

『帰還兵はなぜ自殺するのか』は、戦争の影響や帰還兵の苦悩について、特に深い理解を促す重要な作品です。この本を通じて、多くの人々が帰還兵たちの実情を知り、その痛みに寄り添うことができるでしょう。

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