常楽記

『常楽記』の概要とその意義

『常楽記』は、鎌倉時代末期から室町時代に編纂された一巻の過去帳です。この作品は、特に永仁3年（1295年）から応永32年（1425年）までの著名な人物の死没年月日、すなわち忌日を記録しています。収録されている人物は、天皇、公家、武家、僧侶など多岐にわたり、彼らの年齢や生誕地、死因、埋葬場所などの詳細な注記も所々に見受けられます。

歴史的な背景

この過去帳は、主に京都を中心に情報が集められていますが、時には鎌倉や他の地域にまで及ぶこともあります。この記事は、南北朝時代から室町時代初期に活躍した歴史的な人物たちに関する貴重な一次情報源としての役割を果たしています。書かれた当時の社会状況や文化についても知る手がかりとなっており、この時代の日本における人物の生死に関する理解を助ける重要な文献です。

筆者について

『常楽記』の筆者は不明ですが、龍門文庫に所蔵されている古写本の表紙には「常楽記 釈迦院」との題名があり、特に醍醐寺に関する僧侶の記事が多いことから、恐らく醍醐寺の釈迦院に属する僧侶によって書かれたものと考えられています。この作品は、元応年間には着手されたとされ、特に1314年11月26日付の記述に「愚身卅五歳」という記録が見られることから、この時期に筆者の個人的な経歴が反映されている可能性があります。

収録内容の特性

全体を通して誤った情報や誤解に基づく記述が散見されるものの、南北朝時代から室町時代初期の重要な人物に関する選りすぐりの情報を集約しており、全体として信頼できる歴史的価値があります。特に、人物の記録は詳細にわたり、当時の人々の生きざまや社会の構造についての洞察を与えてくれます。

複数の写本とその保存状況

『常楽記』は、後に『群書類従514』に収録されることになります。古写本と比較すると前者にはいくつかの誤写や抜け落ちが見受けられますが、古写本に生じた損傷を補う価値のある記事も多く、どちらの写本も研究を進める上で重要な参照資料とされています。さらに、天明3年（1783年）に写された宮内庁書陵部本も存在しましたが、一部は戦災で失われました。これらの資料は、時代を超えた知識を後世に伝えるために、根気よく保存され、研究の対象となっています。

『常楽記』は単に人物名や忌日を記載したものではなく、貴族社会や仏教界の文化、さらには当時の人々の意識を反映する作品として、学術的にも貴重に評価されています。

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