常陸丸事件

常陸丸事件とは

常陸丸事件は、1904年6月15日に日露戦争の最中、玄界灘で起こった軍艦による襲撃事件です。この事件では、陸軍徴傭運送船である「常陸丸」を含む3隻の日本の輸送船が、ロシア帝国海軍のウラジオストック艦隊によって攻撃され、多くの死者が出ました。特に「常陸丸」の失陥は日本国内において大きな反響を呼び、連合艦隊の長官である上村彦之丞中将に対する批判が渦巻くこととなります。

背景

ロシア帝国の海軍戦略は19世紀半ばに近代化が進められ、沿岸防御を重視した艦隊の整備が行われていました。この時期に整備された艦艇の中には、通商破壊を目的とした巡洋艦も存在していました。ロシア海軍は日清戦争後、旅順と大連を租借することで太平洋への進出を図り、ウラジオストックに巡洋艦を配備し、日本の海上輸送路を狙う作戦を展開しました。

戦闘経過

ウラジオ艦隊は1904年6月12日に出撃し、3日後の6月15日には「常陸丸」と遭遇しました。「常陸丸」は6月14日に宇品を出港し、現在の韓国に向けて航行中だった輸送船です。午前10時から11時頃、ウラジオ艦隊は「常陸丸」に対して攻撃を開始しました。初めは空砲を発射しただけでしたが、すぐに実弾が飛び交い、船は全速力で逃げようとしましたが、多くの攻撃を受け、機関部が損傷し火災も発生しました。

乗員たちは必死に応戦しましたが、圧倒的な火力の前に戦死者が続出。最終的には多くの将校や乗員が自決し、船は15時ごろに沈没しました。結果的に、「常陸丸」では956名の陸軍人、3名の海軍人、そして130名の乗組員が命を落としました。生存者はわずかに37名でした。

事件の影響

常陸丸の事件は日本社会に衝撃を与えました。乗員たちの壮絶な最期は、国の悲劇として語り継がれることとなり、後に慰霊碑も建てられました。また、事件の背後には不満の声が高まり、連合艦隊への批判が集中したため、上村中将宅が襲撃されるなど、民衆の憤激は政治的な動きへとつながりました。

第二艦隊に対する非難は続き、民衆の心情は激怒し、さらに「露探艦隊」と呼ばれるようになるなど、社会不安を引き起こしました。一方で、戦争の厳しい現実に目を向けさせる契機にもなり、国民の戦意を鼓舞する要素ともなっていきました。

作品に描かれる事件

この事件は多くの作品に取り上げられています。日本映画『日本海大海戦』などでは、乗員たちの英勇な行動や、事後の悲劇を描いています。歌や文学作品に影響を与え、多くの人々の記憶に残ることとなりました。

最後に

常陸丸事件は、日本の海軍が経験した屈辱的な出来事の一つであり、多くの命が失われた悲劇として長年にわたり記憶され続けています。この事件の教訓は、国民に勇気や士気を与える一方、戦争の厳しい現実を常に念頭に置く必要があるということを示しています。

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