平中物語

平中物語：平安時代の恋物語とその謎

『平中物語』は、平安時代に成立した歌物語です。作者や正確な成立年は分かっていませんが、主人公の「平中」は、平安時代中期の歌人、平貞文であると考えられています。作品全体の雰囲気や、作品中に詠まれた歌の多くが平貞文の作品であることから、この結論に至っています。

成立と伝本の謎

物語の末尾には「富小路殿の右大臣殿」という記述があり、藤原顕忠が右大臣だった960年から965年までの間に成立したと推測されています。しかし、文章の表現様式から、物語の主要部分の成立は960年よりもかなり前である可能性が高いです。

『平中物語』の成立過程については、複数の説があります。ある研究者は、平貞文が存命中に作られた歌集『貞文集』を基に、その後編集されて成立したと主張しています。一方、別の研究者は、平貞文自身の作品であるとする説を唱えています。現在、これらの説のいずれが正しいか断定することはできません。

現在伝わっている『平中物語』の写本は、静嘉堂文庫所蔵の「平仲物語」と題された1冊のみです。この写本を底本として、現代の印刷本が作られています。そのため、現在では他の異本が存在した形跡は確認できていません。しかし、中世には複数の写本が存在した可能性も示唆されています。

物語の内容と特徴

『平中物語』は、159首の歌と39段の説話から構成されており、その歌の約6割は平貞文の作品とされています。物語の主題は恋であり、『伊勢[[物語]]』と同様に、主人公を中心に物語が展開します。しかし、『伊勢[[物語]]』が在原業平の実像を大きく超えた虚構や比喩を用いているのに対し、『平中物語』は、平貞文の実像を大きく逸脱しておらず、恋の悲しみや諦念といった、より消極的な感情が中心となっています。また、『古今和歌集』や『伊勢[[物語]]』を意識的に模倣したり、パロディとして用いている箇所も確認できます。さらに、『伊勢[[物語]]』に比べて、和歌以外の地の文の割合が多いことも特徴として挙げられます。

難解な文章と校訂

孤本であるという性質上、『平中物語』の文章は、誤字脱字や文章の飛躍が多く、非常に難解です。しかし、一方で短い文章が連続することでテンポが速く、軽快なリズム感があるという評価もあります。この難解さから、正確な解釈や理解には、多くの研究者による校訂と解釈が必要とされています。

校訂本

『平中物語』は、これまでに多くの研究者によって校訂され、様々な版が刊行されています。代表的な校訂本としては、山岸徳平、萩谷朴、遠藤嘉基、片桐洋一、目加田さくを、清水好子らの校注・訳注本が挙げられます。これらの校訂本は、本文の正確さや注釈の充実度などに違いがあり、研究者や読者のニーズによって最適なものを選ぶことができます。それぞれの校訂本は、異なる解釈やアプローチに基づいており、それらを比較検討することで、より深い理解を得ることが期待できます。

今後の研究課題

『平中物語』は、現存する唯一の写本という希少性と、難解な文章、そしてその成立過程の謎など、多くの未解明な点が残されています。そのため、今後の研究によって、より正確な成立過程や、作品に込められた意味の解明が期待されます。特に、中世に存在した可能性のある異本に関する情報の発掘や、現存する写本の詳細な分析は、重要な課題と言えるでしょう。これらの研究を通して、『平中物語』の魅力をより深く理解し、平安時代文学の一端を明らかにすることが期待されます。

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