平井英一

平井 英一

1978年10月4日、香川県に生まれた平井英一は、社会人野球において特異なキャリアを築いた元選手であり、後にコーチも務めました。

香川中央高校から国士舘大学へと進み、卒業後の2001年に朝日生命へ入社。同社の硬式野球部に入部し、投手として新たなスタートを切りました。この時の同期には、後にプロ野球でも活躍する金剛弘樹がいました。入部初年度にはチームとして都市対抗野球大会への出場を果たしましたが、皮肉にもこの年限りで朝日生命野球部は廃部となります。平井は野球を続けるため、強豪として知られる富士重工業（現在のSUBARU）へ移籍しました。

富士重工業へ移籍して迎えた最初のシーズン、2002年には、その才能からプロ入りも期待される存在となりました。しかし、この期待とは裏腹に、開幕間もなくして突如、投球時に深刻な異変に見舞われます。いわゆるイップスを発症し、思うようにボールを投げられなくなってしまったのです。平井氏の場合、特にボールが握れなくなるという、プレー継続が困難となるほどの深刻な症状でした。精神的な苦痛から一時的に野球からの引退も考え、チームにその意向を伝えましたが、当時の監督やコーチたちの懸命な説得により、なんとか現役続行を決意します。

イップス克服という困難な課題に直面しながらも、平井氏は諦めませんでした。失われた投球感覚を取り戻すため、毎年のように投球フォームの大胆な変更を試みる試行錯誤を繰り返しました。特に印象的なのは、2003年シーズンに見せた投球フォームです。オーバースローの投手でありながら、アンダースロー投手が腕を振るかのように、極めて低い位置から大きく振りかぶって投げるという、他に類を見ないユニークなスタイルを採用しました。こうした粘り強い努力と探求の結果、最終的にはイップスを克服し、再び安定した投球を取り戻すことに成功しました。

現役晩年には、トルネード投法にも似た、体を大きくひねる変則的なフォームで投球するなど、晩年まで自身のスタイルを模索し続けました。その長い社会人野球生活の中で、投手としての実績も積み重ね、特に都市対抗野球大会には2014年まで10年連続出場という偉業を達成しました。これは、イップスという大きな壁を乗り越え、長く第一線で活躍し続けた証と言えるでしょう。また、2009年には第38回IBAFワールドカップの日本代表にも選出され、国際舞台も経験しています。

2014年シーズンをもって現役選手としてのキャリアに終止符を打ち、翌2015年からは富士重工業野球部の投手コーチに就任。指導者として後進の育成に力を注ぎました。2018年限りでコーチを退任し、長年にわたる社会人野球での活動に区切りをつけました。

平井英一氏は、プロ注目の才能を持ちながらも、突如襲ったイップスという苦難を乗り越え、多様な投球フォームを模索し続けるなど、選手として類稀なる粘り強さと探求心を示しました。その波乱に満ちた経歴は、多くの困難に立ち向かうアスリートにとって、示唆に富むものと言えるでしょう。

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