平出隆

平出隆：詩と散文、そして野球を愛する文人

平出隆（ひらいでたかし）氏は、1950年福岡県門司市生まれの詩人、散文家である。詩集や評論集の刊行に加え、国際的なベストセラーとなった小説『猫の客』の著者としても知られる。その活動は多岐に渡り、自らデザインや写真を手がけたミニマルな書籍シリーズ「via wwalnuts」の刊行、多摩美術大学名誉教授、芸術人類学研究所所員としての活動など、多彩な才能を発揮している。

早期活動と詩的ラディカリズム

一橋大学在学中の1972年、詩篇「花嫁」を発表してデビュー。1974年には、稲川方人氏、河野道代氏と共に版元「書紀書林」を設立し、詩誌『書紀』『書紀=紀』などを刊行。70年代の詩的ラディカリズムを代表する存在として活躍した。書紀書林は一時活動を休止するものの、90年代には建畠晢氏を加え、『stylus』を刊行するなど、精力的に活動した。 その後、2010年には「via wwalnuts」社を設立し、独自のブックデザインと出版活動を展開している。

出版社勤務と多様な作品

1978年には河出書房新社に入社し、『文藝』編集部で澁澤龍彦氏や川崎長太郎氏らの担当編集者となる。編集者としての経験も、平出氏の作家としての活動に大きく影響を与えたと考えられる。在職中から詩集や評論集の刊行を続け、1982年には第一評論集『破船のゆくえ』と第二詩集『胡桃の戦意のために』を発表。その後も、『若い整骨師の肖像』、『家の緑閃光』といった詩集や、『攻撃の切尖』、『光の疑い』といった評論集を発表、幅広い作品を発表し続ける。1993年には『左手日記例言』で第45回読売文学賞を受賞。

小説『猫の客』の大成功と国際的な評価

2001年に発表された小説『猫の客』は、日本のみならず海外でも高い評価を受け、国際的なベストセラーとなった。英訳、仏訳を始め、スペイン語、オランダ語、イタリア語、スウェーデン語、ドイツ語、中国語（台湾・繁体字版）、ポーランド語と、多くの言語に翻訳されている。この作品は、ニューヨーク・タイムズとサンデー・タイムズでベストセラーとなり、平出氏の知名度を世界的に高めた。

多摩美術大学での教育活動

1990年より多摩美術大学美術学部芸術学科に非常勤講師として着任し、助教授、教授を歴任。芸術学科長も務め、2006年には中沢新一氏を招聘し、芸術人類学研究所を創設。以後、同研究所で《野外を行く詩学》部門を担当、フィールドワークに基づく研究活動に尽力している。

草野球チーム「ファウルズ」と野球への情熱

平出氏は、草野球チーム「ファウルズ」の監督兼三塁手として、長年チームを牽引してきたことでも知られる。1976年に詩人仲間との雑談から発足した同チームは、1985年にはアメリカ野球殿堂から公認された史上初の草野球チームとして、ユニークな歴史を持つ。平出氏自身も、『ベースボールの詩学』、『白球礼讃』など、野球をテーマにしたエッセイを発表している。

出版活動と「via wwalnuts」叢書

2010年に設立された「via wwalnuts」社では、8ページを基本としたミニマルな書籍シリーズ「via wwalnuts」叢書を刊行。独自のブックデザインと、既存の文壇や詩壇から独立した新しい流通網を構築することで、読者とのコミュニケーションを模索している。この叢書は、美術家の加納光於氏とのコラボレーションによる作品も多く、平出氏の多様な活動の一端を象徴している。

受賞歴

平出氏は、芸術選奨文部大臣新人賞、読売文学賞、木山捷平文学賞、紀行文学大賞、芸術選奨文部科学大臣賞など、数々の文学賞を受賞している。2008年には『胡桃の戦意のために』の英訳がアメリカの最優秀海外図書賞を受賞するなど、国際的な評価も高い。

まとめ

平出隆氏は、詩、散文、小説、評論、そして草野球と、多様な分野で活躍する稀有な存在である。その活動は、常に実験的で、既存の枠にとらわれない自由な表現を追求していることがわかる。今後も、平出氏の新たな作品や活動に注目が集まるであろう。

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