平安神宮放火事件

1976年1月6日、京都市左京区に位置する平安神宮で、新左翼活動家の加藤三郎による放火事件が発生しました。この事件は、単なる放火事件にとどまらず、日本の歴史、思想、そして司法の解釈にまで影響を及ぼした複雑な背景を持つ事件です。

平安神宮の来歴と犯行動機

平安神宮は、1895年に平安京遷都1100年を記念して創建された神社で、平安京を築いた桓武天皇を祀っています。加藤は、桓武天皇が自身の権威を誇示するために民衆を苦しめ、蝦夷を侵略したと解釈していました。彼は、このような天皇を祀ることは神への冒涜だと考え、その思想が放火という行動に繋がりました。

事件の概要

加藤は、1976年の正月三が日に参拝客に紛れて下見を行い、1月6日午前3時35分頃に犯行に及びました。彼は平安神宮の内拝殿に放火し、逃走しました。京都市消防局は、市内全ての消防署と消防団に出動を要請しましたが、火は既に内拝殿から本殿へと燃え移っており、外拝殿（大極殿）への延焼を食い止めるのがやっとでした。

平安神宮は明治時代に創建されたため、文化財指定を受けておらず、自動火災報知設備の設置義務もありませんでした。そのため、火災の発見が遅れ、被害が拡大しました。

加藤は、犯行後、京都会館と京都市美術館に犯行声明の電話をかけ、自身の闘争を誇示しようとしましたが、報道は電話があったという事実のみにとどまりました。その後、2月11日に「世界赤軍日本人部隊・闇の土蜘蛛」名義で、桓武天皇による蝦夷征伐を継承する天皇制日本帝国への宣戦布告を記した犯行声明文を新聞社に郵送しました。しかし、この声明文も公表されることはありませんでした。

加藤は、これらの過程で自身の「反天皇制闘争」が黙殺されていると感じ、「天皇制日本国家の陰謀」と認識し、敵対意識を強めました。その結果、彼はより大きな事件を起こすために爆弾テロを計画することになります。

裁判と刑法上の意義

この事件の最高裁判例（最高裁平成元年7月14日第三小法廷決定）は、刑法における現住建造物放火罪の判断において重要な判例となっています。第一審と控訴審では現住建造物放火罪が認められましたが、弁護側は、放火された社殿は現住建物である社務所とは別であるとして、非現住建造物放火罪の成立を主張しました。しかし、最高裁は、社殿が現住建物である社務所と物理的、機能的に一体であると判断し、現住建造物放火罪の成立を認め、弁護側の上告を棄却しました。この判例は、建造物の現住性の解釈において重要な基準となっています。

参考資料

• - 『京都新聞』1976年1月6日号外、1月6日夕刊
• - 加藤三郎『意見書 「大地の豚」からあなたへ』思想の科学社、1992年
• - 星周一郎『刑法判例百選Ⅱ各論(第七版)』166頁　有斐閣　2014年

関連項目

• - 日本原住民論
• - 反日亡国論

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