平家女護島

近松門左衛門作『平家女護島』：鬼界が島の悲劇と赦免の虚しさ

『平家女護島』は、享保4年'>[近松門左衛門]]によって創作された人形浄瑠璃作品です。1719年]8月12日、大坂竹[[本座で初演され、その後間もなく歌舞伎にも上演されるなど、広く親しまれた作品となりました。

本作は『平家物語』や能『俊寛』を題材としており、特に「鬼界が島の段」は独立して『俊寛』として上演されるほど有名です。この段は、鹿ケ谷の陰謀に関わった俊寛、成経、康頼の三人が鬼界ヶ島に流された後の物語を描いています。

鬼界が島の絶望と束の間の幸福

鬼界ヶ島に流されて三年。三人は、刑期のない流罪生活を送っていました。食料は乏しく、九州からの船に硫黄を売ったり、海草を食べて飢えをしのいでいました。そんな絶望的な状況の中、成経は島で出会った海女の千鳥と結婚を決意します。これは、三人に取っては数少ない希望の光でした。簡素ながらも、成経と千鳥は俊寛と康頼の前で祝言を挙げ、束の間の幸せを味わいます。

恩赦と残酷な真実

しかし、その喜びもつかの間。都から船が到着し、上使の妹尾が、建礼門院の懐妊を理由に平清盛が恩赦を出したと告げます。成経と康頼は赦免状に名を連ねていましたが、俊寛の名前はありませんでした。妹尾は、清盛の俊寛への深い怨念が原因だと告げ、俊寛を突き放します。

絶望に打ちひしがれる俊寛でしたが、その後、別の赦免状が到着します。これは、平重盛が俊寛のために独自に用意したものでした。全員が帰れると安堵したのも束の間、妹尾は新たな残酷な事実を告げます。なんと、俊寛の妻・東屋が清盛の命により殺害され、それを実行したのが妹尾自身だったのです。

俊寛の決断と孤独

妻を失った俊寛は、都への未練を断ち切り、島に残ることを決意します。代わりに、千鳥を船に乗せるよう妹尾に懇願しますが、妹尾はこれを拒否し、俊寛を侮辱します。怒りに燃えた俊寛は妹尾を殺害し、その罪により島に残る代わりに、基康に千鳥を船に乗せるよう頼みます。

千鳥を乗せた船が出発すると、俊寛は耐え難い孤独感に襲われます。船を止めようとしますが、船は遠ざかり、俊寛は絶望の叫びを上げます。船が見えなくなるまで、俊寛は岩山に登り、船を追いかけ続けるのでした。

『平家物語』との比較と近松の演出

『俊寛』は『平家物語』巻の三「足摺り」を基にしていますが、内容は大幅に脚色されています。『平家物語』では、俊寛は運命に翻弄され、否応なしに島に残されます。一方、『俊寛』では、俊寛は自らの意志で島に残ることを選択し、その決断の重さが強調されています。

近松の『俊寛』では、俊寛の弱さと未練、そして絶望が克明に描写されています。歌舞伎では、舞台装置の巧みな変化や、妹尾との斬り合いにおける所作事、千鳥の薩摩弁の台詞など、様々な演出が用いられ、鬼界ヶ島の情景や登場人物の心情を効果的に表現しています。

『平家女護島』は、歴史的事実を基にしながらも、近松門左衛門の独自の解釈と演出によって、人間の業や運命、そして孤独の深淵を描き出した傑作と言えます。

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