平山輝男

平山 輝男（ひらやま てるお）

平山輝男（1909年8月16日 - 2005年8月17日）は、日本の国語学者として、特に日本語の方言研究、とりわけアクセント研究において画期的な業績を残した人物です。東京都立大学名誉教授であり、日本音声学会の第5代会長も務めました。

生涯と学歴

1909年、宮崎県北諸県郡中郷村（現在の都城市）に生まれた平山輝男は、地元の中郷村尋常高等小学校を1922年に卒業後、東京に進学しました。1928年に麻布中学校を卒業し、國學院大學文学部国文学科に入学。1935年3月に同大学を卒業後、大学院へと進み、1937年3月に修了しました。この間、彼は国語学の権威である金田一京助や、国文学・民俗学で著名な折口信夫といった日本を代表する学者たちに師事し、深い学識と研究姿勢を身につけました。

教育と研究活動

大学院修了後、1937年4月より法政大学の講師として教育者としての道を歩み始めました。1940年6月には東京府立高等学校の教授に就任。戦後の学制改革を経て、1949年4月には新設された東京都立大学人文学部の助教授に着任しました。東京都立大学では、彼のライフワークとなる日本語の方言アクセント研究に本格的に取り組みます。その研究成果が認められ、1957年には論文「日本語音調の研究」により文学博士の学位を取得しました。

1962年2月には、東京都立大学人文学部の教授に昇任。学内では研究・教育の中心的な役割を担い、1969年4月には東京都立大学附属図書館長、1971年4月には人文学部長と、要職を歴任しました。1973年4月、定年退職により東京都立大学名誉教授の称号を授与されました。退職後も研究への情熱は衰えることなく、1975年5月からは母校である國學院大學日本文化研究所の教授として、後進の指導と研究活動を続けました。

主な研究活動と功績

平山輝男の学術的功績の中で最も特筆されるのは、それまで十分に体系化されていなかった日本語方言のアクセントについて、その実態と法則性を全国規模で解明したことです。彼は研究室に留まらず、自ら積極的に各地へ赴き、戦前の樺太（現在のサハリン）から日本の南西端にある沖縄の与那国島に至るまで、文字通り全国を網羅する広範な実地調査を実施しました。この精力的なフィールドワークによって収集された膨大な言語資料は、日本語方言研究の貴重な基盤となりました。彼はこれらの資料を精密に分析し、各地の多様なアクセント体系を詳細に記述。特に、アクセントが一定せず揺れが見られる地域における「曖昧アクセント」といった現象の存在を明らかにし、その解明に貢献しました。これらの研究成果は、日本語の地域的多様性を理解する上で欠かせない視点を提供しました。

彼の研究活動は、数々の記念碑的な著作や大型辞典の編纂として結実しています。1960年に刊行された『全国アクセント辞典』は、その後の日本語アクセント研究にとって不可欠な基礎資料となりました。さらに、1982年から1983年にかけて編纂された『全国方言辞典』、そして特に代表的な業績として挙げられるのが、1992年から1994年にかけて完成した『現代日本語方言大辞典』です。これは、長年にわたる調査と多数の研究者との共同作業によって生み出された、日本の言語地理学・方言学における金字塔ともいえる大事業であり、全国各地の方言の語彙・アクセント・文法などを網羅的に記述した、他に類を見ない貴重な辞書です。これらの辞書編纂を通じて、日本の豊かな言語文化を記録・保存し、後世に伝える上で計り知れない貢献を果たしました。また、『日本のことばシリーズ』などの編纂を通じて、専門的な研究成果を広く一般に紹介することにも力を注ぎました。

受賞と栄誉

平山輝男は、長年にわたる学術研究と教育への貢献が高く評価され、幾多の栄誉に輝きました。1981年4月には、国からの顕彰として勲三等旭日中綬章が授与されました。また、1990年11月には、日本の学術・文化の発展に特に顕著な功績があった人物に贈られる文化功労者として顕彰されました。これは、彼が日本の言語研究、特に方言の記録と研究に果たした役割の大きさを物語るものです。さらに、『現代日本語方言大辞典』の完成という偉業に対し、1994年11月に毎日出版文化賞特別賞が贈られました。

晩年と逝去

平山輝男は、生涯を通して日本語、とりわけ方言の研究に情熱を注ぎ続けました。2005年8月17日、96歳の誕生日を迎えた翌日に呼吸不全のためその生涯を終えました。彼の死去は、日本の国語学界、特に方言研究分野にとって大きな損失でしたが、彼が切り拓いた研究領域、確立した調査手法、そして残した膨大な資料は、今もなお多くの研究者によって引き継がれ、活用されています。平山輝男の名前は、日本の言語研究史に燦然と輝く存在として記憶されています。

主な著作・編纂書

『全国アクセント辞典』東京堂出版, 1960年
『日本の方言』講談社, 1975年
『全国方言辞典』【編】角川書店, 1982年 - 1983年
『現代日本語方言大辞典』【編】明治書院, 1992年 - 1994年
* 『日本のことばシリーズ』【編】明治書院, 1997年 - 刊行中

（※上記は代表的な著作・編纂書の一部です）

もう一度検索