平帝 (漢)

平帝（へいてい）：簒奪の時代の皇帝

平帝（紀元前9年 - 紀元後6年）は、前漢の第14代皇帝であり、漢王朝衰退期における象徴的な存在です。わずか9歳で即位し、14歳で死去するという短い生涯は、簒奪者として知られる王莽の台頭と深く結びついています。

生涯

中山王時代

平帝、諱は当初、箕子（きし）。元帝の孫として生まれました。父は中山孝王劉興。母は衛姫。幼少期は中山王として過ごし、病弱であったため、祖母である馮氏が養育にあたりました。しかし、哀帝の時代に、馮氏が呪詛を行ったという誣告を受け、自害するという悲劇に見舞われます。

皇帝即位

哀帝の崩御後、王莽の主導により、わずか9歳で皇帝の座につきます。しかし、幼少の皇帝には政治の実権はなく、太皇太后の王政君と王莽が国政を掌握しました。王莽は権力を掌握するために、政敵を排除し、自らの地位を固めていきました。

元始の政治の開始

平帝の在位期間は、「元始」と称される時代であり、王莽による様々な改革が試みられました。瑞兆である白雉が献上されたことを利用し、王莽は自らを周公旦になぞらえ、権威を高めようとしました。また、平帝の母の一族を優遇する一方で、自身の権力基盤を強化するために、様々な政策を実行しました。

元始2年（2年）には、平帝の名を「衎」に改める詔が発せられました。これは、当時の社会において、皇帝の名を日常的に使用することを避けるという慣習に基づいた措置です。また、王莽の提案により、王朝の功臣の子孫らへの封爵が行われ、漢王朝の再建を試みる姿勢を示しました。

しかし、各地で猛暑や蝗害が相次ぎ、民衆は苦しみました。王莽は私財を投じて民衆を救済する政策を実施しましたが、その真意は自身の人気取りにあったとも言われています。

皇后選定と母の一族の粛清

元始3年（3年）、王莽の娘が皇后に選ばれることになります。これは、王莽の権勢をさらに強固にするものでした。同年、王莽の長男である王宇らが、平帝の母である衛姫を長安に入れることを画策しますが、これは王莽によって阻止され、王宇らは処刑されます。この事件を機に、王莽は衛姫の一族を粛清し、平帝の母方の勢力を排除しました。

王莽が宰衡となる

元始4年（4年）、王莽は宰衡（さいこう）という、事実上の最高権力者の地位に就きます。これは、古代中国の賢臣である伊尹や周公旦になぞらえたもので、王莽の権勢は頂点を迎えました。王莽は明堂や辟雍を再建し、自らの功績を誇示するとともに、西海郡を設置して流刑地とするなど、強圧的な政策も行いました。

突然の死

元始5年（5年）、平帝は重病に倒れ、14歳という若さで死去します。その死については、王莽による毒殺説が根強く存在します。平帝が成長するにつれて王莽を憎むようになったため、王莽が平帝を毒殺したというのです。しかし、確たる証拠はなく、真相は不明です。

平帝の死後、王莽は権力を掌握し、やがて簒奪に至ります。平帝は、漢王朝の終焉を告げる、悲劇的な皇帝として歴史に名を残しました。

家族

后妃：王氏（王莽の娘）

参考文献

東晋次『王莽―儒家の理想に憑かれた男』（白帝社アジア史選書）、白帝社 、2003.10
渡邉義浩『王莽―改革者の孤独』（あじあブックス）、大修館書店、2012.12
渡辺信一郎『中華の成立　唐代まで』（シリーズ中国の歴史①）、岩波新書、2019.12

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