平重衡とらわれの松跡

平重衡とらわれの松跡：一ノ谷の戦いの悲劇と地元の温情

兵庫県神戸市須磨区須磨寺町に位置する「平重衡とらわれの松跡」は、源平合戦の歴史を今に伝える石碑です。山陽電鉄須磨寺駅からほど近い場所にあり、訪れる人の目印となっています。この石碑は、1184年（寿永3年）の一ノ谷の戦いで捕らえられた平重衡にまつわる悲話と、地元住民の温かい行動を物語っています。

一ノ谷の戦いでの捕縛

一ノ谷の戦いにおいて、平重衡は兄・平知盛と共に生田の森で源範頼軍を迎撃しました。勇猛果敢に戦ったものの、劣勢となった平重衡は退却を試みます。しかし、西須磨にて源範頼の郎党、庄太郎家長（児玉党）に馬を射られ、落馬して捕らえられました。この出来事については、『平家物語』では弟の庄四郎高家による捕縛と記されていますが、『吾妻鏡』は家長による捕縛を伝えています。複数の史料を総合的に見ると、家長の通称は太郎であり、『源平盛衰記』にある「庄三郎家長」という記述は、庄三郎忠家の伝承との混同による誤記であると考えられます。

濁酒の情け

捕縛された重衡は、近くの松の木に腰掛け、無念の涙を流しました。その様子を哀れに思った地元の村人たちは、重衡に濁酒を差し出しました。重衡はそれを受け取ると、喜びのあまり次の歌を詠んだと伝えられています。

>ささほろや　波ここもとを　打ちすぎて　すまでのむこの濁酒なれ

この歌は、敗戦の悔しさ、そして村人たちの思いやりへの感謝が込められていると解釈できます。この松は「平重衡とらわれの松」と呼ばれ、人々に語り継がれてきました。その後、松は枯れてしまいましたが、その跡地に石碑が建てられ、「平重衡とらわれの松跡」として現在に至っています。

石碑が伝える歴史

「平重衡とらわれの松跡」の石碑は、単なる史跡としてだけでなく、源平合戦という激動の時代、そして敗者の悲しみと、それを慰める地元の人々の温かい心遣いという、対照的な感情が交錯した歴史の断片を伝えています。この石碑を訪れることで、私たちは歴史の重みと、そこに息づく人間のドラマを深く感じることができるでしょう。小さな石碑の中に、大きな歴史と人間の物語が凝縮されていると言えるでしょう。須磨を訪れた際には、ぜひこの石碑に立ち寄り、歴史に思いを馳せてみてください。

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