源平盛衰記

源平盛衰記について

『源平盛衰記』（げんぺいせいすいき）は、平家物語の異本として位置づけられる軍記物語で、14世紀頃に成立したと考えられています。全48巻からなるこの作品は、特に治承年間から寿永年間（1177年から1184年）に起きた源平争乱を中心にして描かれています。

作品の特徴

源平盛衰記は、年代記的な形式をもつ平家物語とは異なり、特に仁安から文治までの改元記事を包括的に取り入れている点が大きな特徴です。語り本系の諸本が14世紀に覚一によって校訂されたのに対し、読み本系の諸本は17世紀初期に源平盛衰記の古活字版が出版されるまで校訂が行われなかったとされています。

源平盛衰記には様々な説話やエピソードが豊富に挿入されており、原本が成立してから近世初期までの間に、不規則で大きな変化があったと考えられています。渥美かをるは慶長古活字本に基づく系統と、直接の影響が見られない系統との二つに分類しました。前者には、慶長古活字本や近衛本、東京大学付属図書館本などが含まれ、後者には蓬左文庫本や静嘉堂文庫本、黒川本などが存在します。特に黒川本は研究者の山田孝雄の著作に紹介された後、関東大震災で焼失しましたが、その影響は資料として記録されています。

基本的な異本照合の試み

源平盛衰記に関連する最初の大規模な異本照合作業は、水戸藩による『参考源平盛衰記』に見られます。この作業では、平家物語を資料として吟味し、様々な諸本を展望するために源平盛衰記が基準として使用されました。その結果、『新定源平盛衰記』が1988年から1991年にかけて出版され、現在も古典文学の研究において重要な役割を果たしています。

様々な研究と成立時期

源平盛衰記と平家物語の間の先後関係は、研究者間で意見が分かれています。例えば、林羅山は葉室時長が源平盛衰記を編纂したとし、その後に行長が平家物語を構築したと考えました。一方、近代の研究者である山田孝雄は源平盛衰記が後発であるとし、藤岡作太郎はその逆の見解を示しています。

さらに、山下宏明は源平盛衰記を「原平家」から派生したものであるとし、異なる系統が存在することを示唆しました。特に冨倉徳次郎の時代以降、源平盛衰記は一般的に読み本系に分類されていますが、渥美かをるは語り本系の要素もあると主張しています。

落語や講談における源平盛衰記

源平盛衰記は落語や講談の題材としても使用されていますが、その内容は基本的なストーリーに基づかず、むしろ「漫談」や「地噺」に近い形で演じられます。演者によってストーリーが大きく異なり、時事ネタを交えた小噺が重要視されています。

特に7代目林家正蔵や立川談志などがこのネタを得意としており、異なる形や筋で演じられることが多いため、演者の個性が強く反映される特徴を持っています。また、上方落語では『袈裟御前』という演目があり、源平盛衰記同様に逸話が中心となる地噺の形が残っています。

このように、源平盛衰記は文学、歴史、民間芸能の多様な側面を持つ作品であり、日本の文化に多大な影響を与えています。

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