幸野楳嶺

幸野楳嶺（こうの ばいれい）

幸野楳嶺は、弘化元年（1844年）に京都で生まれ、明治28年（1895年）に亡くなった日本画家です。本名は安田直豊といい、楳嶺は号です。円山派の中島来章と四条派の塩川文麟に師事し、両派の画風を習得しました。

生い立ちと修行時代

京都新町で金穀貸付業を営む裕福な家に生まれた楳嶺は、幼い頃から絵画に親しみ、9歳で円山派の絵師、中島来章に入門。約20年間、円山派の基礎を学びました。その後、四条派の塩川文麟に師事し、より写実的な画風を追求しました。

作風の特徴

楳嶺の作風は、円山派の写実性と四条派の装飾性を融合させたもので、花鳥画を得意としました。彼の作品は、緻密な描写と豊かな色彩、そして自然への深い愛情が特徴です。
代表作としては、動物の絵が特徴的な「帝釈試三獣図」や、二宮尊徳の幼少の頃を描いた「秋日田家図（二宮尊徳幼児図）」などがあります。これらの作品は、教育的なテーマを扱いながらも、芸術性の高い表現で評価されています。

しかし、初期の頃は円山派の影響を強く受けており、抒情的な作品も多く見られます。重厚で緻密な描写は、彼の画力と表現力の高さを物語っています。

教育者としての貢献

楳嶺は、画家としてだけでなく、教育者としても大きな功績を残しました。京都府画学校（現：京都市立芸術大学）の設立に尽力し、後進の育成に力を注ぎました。

彼の教育方針は、基礎を徹底的に教え込む一方で、個性を尊重し、自由に表現させるというものでした。また、弟子たちの才能を引き出すために、適切な指導と励ましを与え続けました。

観相家から「一流の画家にはなれないが、育てた者の中から天下一流の絵描きが出る」と言われた逸話は有名で、自身を「踏み台」にして弟子たちが成長することを願っていました。

門下生

幸野楳嶺の門下からは、菊池芳文、谷口香嶠、竹内栖鳳、都路華香といった「楳嶺四天王」をはじめ、上村松園、川合玉堂など、多くの著名な日本画家が育ちました。彼らは、楳嶺の教えを受け継ぎ、日本画壇の発展に大きく貢献しました。

菊池芳文
谷口香嶠
竹内栖鳳
都路華香
森川曽文
三宅呉暁
加藤英舟
多田香疇
川合玉堂
川北霞峰
上村松園
田南岳璋
五代清水六兵衛

晩年

晩年は、帝室技芸員に任命され、シカゴ万国博覧会に作品を出品するなど、国内外で高い評価を受けました。明治28年（1895年）に52歳で亡くなり、京都市の妙蓮寺に葬られています。

幸野楳嶺の作品

帝釈試三獣図
秋日田家図（二宮尊徳幼児図）
月下擣衣図
桜に雀
聖池蓮花図

幸野楳嶺は、その卓越した画技と教育者としての才能によって、日本画壇に多大な影響を与えました。彼の作品は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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