幸野溝

幸野溝（こうのみぞ）

幸野溝は、熊本県球磨郡の湯前町から錦町にかけて広がる水田地帯を潤す、地域を代表する農業用水路です。その歴史は古く、17世紀末の元禄時代にまで遡ります。

歴史

幸野溝は、球磨川から取水し、湯前町馬返から多良木町を経由して、あさぎり町の神殿原まで至る灌漑用水路です。その建設は、元禄9年（1696年）に着工されたという説と、翌年に着工されたとする説があります。工事は、球磨川の度重なる洪水や、相良藩の財政難による資金不足、当時の土木技術水準の限界など、多くの困難を伴いました。しかし、役人の高橋七郎兵衛政重が、1696年から10年の歳月をかけ、1705年（宝永2年）に完成させました。

幸野溝の開削は、同時期に開削された百太郎溝とともに、上球磨地方の水田化を大きく進展させました。しかし、扇状地にはまだ広大な原野が残されており、更なる発展が必要とされていました。

約250年後の1958年、市房ダムの建設に関連して、本格的な県営球磨川南部地区土地改良工事が開始されました。市房ダムの下流に建設された幸野ダムから水を取り入れることで、幸野溝の受益面積は3,500ヘクタールにまで拡大しました。この近代化工事は1968年に完了し、幸野溝はコンクリート張りの近代的な水路へと生まれ変わりました。

現在

2016年（平成28年）には、「幸野溝・百太郎溝水路群」として、国際かんがい排水委員会（ICID）のかんがい施設遺産に登録されました。これは、幸野溝が持つ歴史的価値と、農業用水路としての重要な役割が国際的に認められたことを示しています。

幸野溝は、現在も球磨地方の農業を支える重要なインフラであり、その歴史と技術は、地域の宝として大切に受け継がれています。

参考文献

『熊本県大百科事典』熊本日日新聞社、1982年、342頁。

外部リンク

水土里ネット幸野溝（幸野溝土地改良区）
全国水土里ネット 水土里デジタルアーカイブス詳細 幸野溝地区
疏水名鑑 幸野溝
人吉球磨ガイド 幸野溝
『球磨郡誌（「幸野溝」のページ）』 - 国立国会図書館デジタルコレクション

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