幼児キリストの礼拝 (フィリッピーノ・リッピ)

幼児キリストの礼拝

フィリッピーノ・リッピ作『幼児キリストの礼拝』は、盛期ルネサンスの息吹を感じさせる油彩作品です。制作年代は1478年頃と推定され、画家の初期の作品の一つとして位置づけられています。この作品には、師であるサンドロ・ボッティチェッリからの強い影響が随所に見られます。

作品の構成

画面の中央では、聖母マリアが草地にひざまずき、幼いイエス・キリストを敬虔なまなざしで見つめています。キリストは、青い布の上に仰向けになり、背後の岩を支えにして身体を起こしています。彼らの周囲は欄干で囲まれ、テラスの上の人工庭園のような空間が広がります。欄干の向こうには、木々が茂る風景が広がり、小川が流れている様子が見えます。

構図は、聖母マリアの頭部を頂点とする安定したピラミッド型をしています。この構図は、ボッティチェッリの『幼児キリストを礼拝する聖母と洗礼者聖ヨハネ』との類似性が指摘されています。また、草地に咲く草花の描写は、ボッティチェッリの『プリマヴェーラ』に見られるものと共通しています。

一方で、欄干の向こうに広がる風景は、ボッティチェッリの作品にはない要素であり、当時のフィレンツェで人気を博していたフランドル絵画の影響を受けていると考えられています。

衣文表現と制作年代

衣文表現は直線的で、滑らかなグラデーションによって陰影が表現されています。量感も安定していますが、やや単調な印象を受けるかもしれません。これは、1482年以降のフィリッピーノ・リッピの作品と比較すると、大きく異なっています。後の作品では、より丸みを帯びた凹凸のある衣文表現や、波打つようなハイライトが特徴的です。このことから、本作はフィリッピーノ・リッピがボッティチェッリの工房から独立し、自身のスタイルを模索していた1470年代後半に制作された可能性が高いと考えられています。ただし、1480年代前半とする研究者もおり、制作年代については1470年代後半から1480年代半ばの間で意見が分かれています。

帰属と評価

作品は、ウフィツィ美術館に収蔵された当初からフィリッピーノ・リッピの作品として認識されており、帰属が疑われたことはほとんどありません。しかし、美術史家バーナード・ベレンソンは、一時的に架空の画家アミーコ・ディ・サンドロの作品としていましたが、現在はフィリッピーノ・リッピの作品として広く認められています。

来歴

この絵画は、19世紀にシエーナ司教ラファエロ・ジーニの所蔵であったことが知られています。それ以前の来歴は不明です。ジーニの死後、絵画はフィレンツェの教区祭司で文学者のジュゼッペ・マンニに遺贈され、マンニは1902年に当時ウフィツィ美術館の館長であったエンリコ・リドルフィに売却しました。売却価格は37,000リラでした。

現在、この作品はウフィツィ美術館の重要なコレクションの一つとして、多くの美術愛好家を魅了しています。

参考文献

『ボッティチェリ展 Botticelli e il suo tempo』アレッサンドロ・チェッキ、小佐野重利編、朝日新聞社（2016年）

外部リンク

ウフィツィ美術館公式サイト, フィリッピーノ・リッピ『幼児キリストの礼拝』

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