幼児キリストを礼拝する聖母と洗礼者聖ヨハネ

『幼児キリストを礼拝する聖母と洗礼者聖ヨハネ』は、イタリアルネサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェッリが1475年から1480年頃に制作した油彩画です。この作品は、ピアチェンツァの貴族ランディ家が所有していたことが記録に残っており、現在は同地のファルネーゼ宮殿内にあるピアチェンツァ市立美術館に収蔵されています。

制作背景

発注主や制作の詳細は不明な点が多いですが、一説によると、フィレンツェの銀行家ベネディット・ディ・アントニオが、枢機卿フランチェスコ・ゴンザーガに贈る目的で「野にいる聖母を描いた円形の板絵」を発注したものが、本作品であると考えられています。この絵画には金箔が施された木彫の額縁が付属しており、ボッティチェッリは1477年に額縁の費用を含めた報酬として、40フローリン金貨を受け取っています。

作品の特徴

絵画の中央には、聖母マリアが緑の草地に横たわる幼子イエス・キリストを礼拝する姿が描かれています。幼子イエスの周囲には赤い薔薇と白い薔薇が敷き詰められ、聖母は自身の衣服の裾を広げ、その上に幼子イエスを横たえさせています。聖母は赤い衣服と青いマントを身に着け、頭と肩を透明なヴェールで覆い、ひざまずいて手を合わせ、崇敬の念を表しています。画面左側には、洗礼者聖ヨハネがラクダの毛皮をまとい、十字架を携えながら、ひざまずいて幼子イエスを礼拝しています。幼子イエスのポーズはやや珍しく、割礼を暗示していると解釈されています。

聖母マリアと洗礼者聖ヨハネの背後には、薔薇の生垣が広がり、その間から遠くの風景が望めます。画面下部には、大理石の欄干があり、ルカによる福音書1章46節から55節に登場する「マニフィカト」の一節が金色で記されています。この一節は、聖母マリアの神への賛美を表現したものです。

様式と評価

ボッティチェッリの他の作品、『マニフィカトの聖母』や『書物の聖母』との様式的な類似性から、この作品がボッティチェッリの作であることに疑いの余地はありません。ただし、洗礼者聖ヨハネの描写は聖母子に比べてやや劣るとされており、工房の助手による作ではないかと指摘されています。1957年から1958年にかけての大規模な修復で、後代に加えられた金色の後光などが除去され、本来の姿を取り戻しました。また、2004年にも修復が行われています。

額縁について

この作品を飾る壮麗な金色の額縁も、ボッティチェッリの時代に制作されたオリジナルです。ザクロ、松の実、小麦の穂、葉、花、リボンなどが彫刻されており、当時の彩色の跡も残っています。額縁の作者は、ボッティチェッリと協力関係にあった彫刻家・木工細工師のジュリアーノ・ダ・マイアーノであるとされています。

来歴

この作品は、17世紀にはピアチェンツァの貴族ランディ家が所有するバルディ城にあったことが知られています。最初の記録は、1642年に作成されたフェデリコ2世・ランディの目録です。1860年にバルディ城がイタリア王国の国有財産となった際、トリノの国立絵画館に移されましたが、当時のエミリア市長の尽力により、ピアチェンツァ市に割り当てられました。当初は公共図書館で展示されていましたが、1903年にピアチェンツァ市立美術館に移管されました。

ボッティチェッリの薔薇垣の聖母画

ボッティチェッリは、薔薇垣を背景にした聖母子画を複数制作しており、それらは彼の特徴的な表現として知られています。この作品もまた、彼のその様な作風を代表する作品の一つです。

この作品は、ボッティチェッリの画風を理解する上で重要な作品であり、ルネサンス期の美術を研究する上で欠かせない資料です。

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