広島紡績所

官営広島紡績所

官営広島紡績所は、明治時代に広島県に存在した官営の模範工場です。愛知紡績所と共に、明治政府が日本の綿糸紡績業を振興するために設立しました。

歴史

背景

広島県は瀬戸内海式気候で日当たりの良い傾斜地が多く、古くから綿花栽培が盛んな地域でした。江戸時代には広島藩が干拓を行い、塩害に強い綿の栽培を奨励したことで、綿織物は藩の主要な特産品として発展。「安芸木綿」は特に高品質で知られていました。

明治維新後の状況

明治維新後、海外からの安価な綿花や綿織物の輸入により、国内の紡績業は衰退しました。そこで明治政府は殖産興業政策の一環として、西洋式紡績機を導入し、国内に模範工場を建設することを決定。綿の生産地であった愛知と広島が選ばれました。

当初、広島の工場は「第二紡績所」という名称でしたが、後に「広島紡績所」と呼ばれるようになりました。

計画と変遷

輸入されたイギリス製のミュール精紡機は水力で稼働させる必要がありました。当初、工場は広島藩の油搾水車場跡地である安芸郡上瀬野村一貫田（現在の安芸区上瀬野二丁目）に建設され、瀬野川の水を利用する予定でした。

しかし、夏場の水量が不足することが判明したため、場所を同村内の熊野川上流、奥畑（現在の安芸区上瀬野町）に変更。ところが、建設中の1881年（明治14年）6月、旧広島藩士への生活救済策として、官営紡績所の払い下げを前提に広島県主導で「広島綿糸紡績会社」が設立されることになります。社長には亀岡勝知が就任しました。

広島県は政府に対し、官営紡績所の払い下げ交渉とともに、佐伯郡河内村下小深川（現在の佐伯区五日市町）に新たな工場を建設することを依頼。双方が合意し、政府からの授産金で下小深川の工場建設が始まりました。奥畑の官営紡績所は完成前に広島綿糸紡績会社に払い下げられたため、官営模範工場としては一度も操業していません。

営業

1882年（明治15年）6月、広島綿糸紡績会社第1工場（旧官営広島紡績所工場、東工場）が完成し操業を開始しましたが、夏場の水量不足により度々運転を休止。1886年（明治19年）または1888年（明治21年）には操業を中止し、機械を広島区河原町（現在の中区）に移して蒸気機関で再開しました。

第1工場操業中の1883年（明治16年）には、広島綿糸紡績会社第2工場（下小深川の工場、西工場）が完成し、操業を開始。ここでも水力を用いたイギリス製紡績機が導入され、八幡川が水源として利用されました。原料のインド綿の運搬と従業員の通勤のため、山陽鉄道五日市駅が設置されました。

広島綿糸紡績会社は第1工場と第2工場で順調に生産を行っていましたが、1890年（明治23年）の恐慌により経営が悪化し、休業となりました。

その後

1893年（明治26年）に株式会社として再編され「広島綿糸紡績株式会社」となりましたが、業績は改善せず1902年（明治35年）に解散。同年、海塚新八が株式を取得し「海塚紡績所」として再開。後に「にしきわた株式会社」となりました。第二次世界大戦中には軍需工場となり、紡績機械は広島市に移されましたが、広島市への原子爆弾投下によって消滅しました。

遺構

官立綿糸紡績工場跡（第1工場）

「官立綿糸紡績工場跡」として1940年（昭和15年）11月10日に広島県の史跡に指定されました。2024年現在、民有地となっていますが、史跡を説明する案内看板が設置されています。石垣や水車に通じる水門、水の調節口などが残っています。当時の測量図は国立公文書館に所蔵されています。

河原町の工場跡

不明

広島綿糸紡績会社第2工場

文化財指定はされていません。2024年現在、民有地であり、当時の石垣が残っています。

官営広島紡績所は、日本の近代化を支えた紡績業の歴史を伝える貴重な遺産です。

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