広瀬和雄

広瀬和雄：考古学の通説を覆す、前方後円墳研究の第一人者

広瀬和雄氏は、1947年生まれの日本の考古学者です。国立歴史民俗博物館の教授として、弥生時代から古墳時代にかけての政治構造を研究しており、特に前方後円墳に関する独自の理論で知られています。

生い立ちと研究の道

京都市で生まれた広瀬氏は、同志社大学商学部を卒業後、大阪府教育委員会に入り、文化財保護課技師として府内の遺跡発掘調査に携わりました。その後、大阪府立弥生文化博物館の学芸課長、奈良女子大学文学部教授、同大学院教授を経て、2004年からは国立歴史民俗博物館の研究部教授を務めています。また、大阪大学で文学博士号を取得しており、その論文テーマは「古墳時代政治構造の研究」でした。

前方後円墳と国家論

広瀬氏の研究の中心は、前方後円墳の政治的・社会的な意味の解明です。彼は、前方後円墳を単なる首長の墓ではなく、「見えるかたちでの死者の王権」を象徴するものと捉え、その形状の斉一性や墳丘規模の階層性に注目しました。そして、前方後円墳が日本列島各地に展開したことを、大和政権を中心とした首長層のネットワーク、すなわち「前方後円墳国家」の表象であると論じました。

この「前方後円墳国家」論は、従来の国家成立に関する見解を大きく変えるものでした。広瀬氏は、国家を「利益共同体」という新たな視点から捉え、前方後円墳をその具体的な表象として位置づけました。また、桜井茶臼山古墳やメスリ山古墳を大王墓の系列から除外するなど、従来の定説に疑問を呈する姿勢も持ち合わせています。

東アジアとの比較

広瀬氏は、古墳時代の墓制を東アジアの墓制と比較し、日本が独特の様相を呈していたと指摘しています。特に、霊肉二元論の観念が古墳時代前期には首長層に存在しなかった点を強調し、食器の副葬が5世紀中頃以降に始まるなど、大陸からの技術や文化の伝播が、日本の墓制に大きな変化をもたらしたと分析しました。さらに、前方後円墳国家が4世紀後半頃には金官伽耶と政治同盟を結んでいた可能性を指摘し、倭の儀礼用の武器・武具が伽耶地域から出土することも、その根拠として挙げています。

考古学の通説への批判

広瀬氏は、著書『日本考古学の通説を疑う』で、固定化された考古学の定説に対して数々の問題提起を行っています。彼は、既存の学説に盲従することなく、常に批判的な視点を持って研究を進めることの重要性を訴えています。

主要な著書と論文

広瀬氏の主要な著書には、『前方後円墳国家』『日本考古学の通説を疑う』『古墳時代政治構造の研究』『前方後円墳の世界』などがあります。これらの著書は、考古学の研究者だけでなく、一般の読者にも広く読まれており、古墳時代への関心を高める上で重要な役割を果たしています。

また、多数の論文を発表しており、その中には「大王墓の系譜とその特質」、「西瀬戸内の弥生都市・文京遺跡」、「新しい弥生開始年代の意義」などがあります。これらの論文は、広瀬氏の研究の深さと幅広さを示しており、考古学研究に多大な貢献をしています。

その他の活動

広瀬氏は、研究活動以外にも、学会や研究集会での発表、書籍の編集、監修など、多岐にわたる活動を行っています。特に、多くの研究者との共同研究を通じて、新たな視点を取り入れ、考古学研究の発展に尽力しています。

広瀬和雄氏は、その独創的な研究と批判精神によって、日本の考古学に新たな地平を切り開いた人物と言えるでしょう。彼の業績は、今後も日本の考古学研究に大きな影響を与え続けることでしょう。

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