桜井茶臼山古墳

桜井茶臼山古墳：初期ヤマト王権の謎を秘めた巨大前方後円墳

奈良県桜井市外山に位置する桜井茶臼山古墳（または外山茶臼山古墳）は、全長207メートルにも及ぶ巨大な前方後円墳です。国の史跡に指定されており、その規模と出土遺物から、初期ヤマト王権解明の鍵を握る重要な遺跡として注目されています。

古墳の構造と特徴

初瀬川の左岸、磐余の地に隣接する自然丘陵を利用して築造されたこの古墳は、前方部が細長く伸びた柄鏡式前方後円墳という独特の形状をしています。古墳時代初期、箸墓古墳に続く時期に造られたと考えられており、当時の卓越した土木技術の高さを示すものです。

戦後になってその存在が明らかになるまで、雑木林に覆われた丘陵として認識されていましたが、発掘調査によって、後円部頂上には高さ約2メートル、9.75メートル×12.5メートルの矩形壇があり、その周囲には二重口縁壺形土器が巡らされていることが判明しました。壇の下には長さ6.7メートルの長大な木棺を納めた竪穴式石室があり、既に盗掘を受けているものの、石室の壁は板状の石を煉瓦のように積み重ね、天井は12枚の巨石で塞がれた堅牢な構造をしています。石室内部には水銀朱が塗布されており、被葬者の高い地位を示唆しています。また、石室周囲には方状の柱跡が確認され、玉垣跡と考えられています。

墳丘からは特殊器台や円筒埴輪の使用痕跡は見つかっていませんが、段築面には葺石が施されています。さらに、2007年にはレーダー探査によって、雨水排水のための石組地中排水溝の存在が確認されています。

驚異的な副葬品：国内最多の銅鏡

桜井茶臼山古墳からは、多数の副葬品が出土しました。特に注目すべきは、国内最多となる103面以上の銅鏡破片です。2023年の奈良県立橿原考古学研究所による発表では、これらの破片から復元された銅鏡は、少なくとも13面以上、推定81枚以上あったと推定されています。

出土した銅鏡の種類は多岐に渡り、斜縁二神二獣鏡、方格規矩四神鏡、獣帯鏡、平縁神獣鏡など、当時の高度な金属加工技術と多様な鏡の流行を示しています。一部の銅鏡破片には「是」とみられる文字が確認されており、三次元計測によって、群馬県蟹沢古墳出土の正始元年銘三角縁神獣鏡と一致することが判明しました。このことから、魏から卑弥呼へ下賜されたとされる100枚の銅鏡の一つではないかという説も出ています。

銅鏡以外にも、ヒスイの勾玉、ガラス製の管玉、小玉などの装身具、鉄刀、鉄剣、銅鏃などの武器類、碧玉製の腕飾り、玉杖などが出土しており、被葬者の権力と富の大きさを物語っています。

被葬者と古墳の性格

桜井茶臼山古墳の被葬者については、様々な説が提唱されています。古事記や日本書紀には伝承がなく、宮内庁の陵墓にも指定されていないため、特定は困難です。

大王墓説では、白石太一郎氏が磐余地域を拠点とした大王「イワレヒコ」を被葬者候補として挙げています。また、西川寿勝氏は、神武天皇のモデルとなったカムヤマトイワレビコを被葬者候補として提案しており、魏の衰亡による情勢変化の中で、邪馬台国体制からの脱却を図った勢力の首長であった可能性を指摘しています。

一方、大王墓説に否定的な立場からは、崇神天皇の御世に四道将軍として北陸方面に派遣された大彦命との関連が指摘されています。塚口義信氏は、桜井市周辺が阿倍氏の勢力基盤であったことに注目し、阿倍氏始祖の伝承の原型となった大豪族の墓である可能性を提示しています。

近年、出土した膨大な数の銅鏡などから、桜井茶臼山古墳は初期ヤマト王権における重要な人物の墓である可能性が高まっています。その規模と副葬品の豪華さから、大王墓の可能性はもちろんのこと、大王に匹敵する権力をもつ大豪族の墓である可能性も考えられます。

年代と位置づけ

桜井茶臼山古墳は、箸墓古墳、西殿塚古墳などと共に、3世紀中葉から4世紀中頃の大王墓群の一つと考えられていますが、記紀に伝承がないことや、纒向遺跡から離れた場所に位置すること、周辺に陪塚群がないことなどから、大王墓ではないとする意見もあります。しかし、同時期の墳墓としては最大級であることから、大王でなくても、それに匹敵する権力を持つ大豪族の墓であったことはほぼ確実視されています。

まとめ

桜井茶臼山古墳は、その規模、出土遺物、そして謎多き被葬者によって、初期ヤマト王権研究において極めて重要な位置を占める遺跡です。今後の研究によって、その全貌が明らかになることが期待されます。

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