広西虐殺

広西虐殺（こうせいぎゃくさつ）

広西虐殺は、中華人民共和国の文化大革命期（1966年〜1976年）において、広西チワン族自治区で発生した凄惨な事件です。この時期、自治区内では大規模な殺戮と、前例のない人肉食（カニバリズム）が行われました。事件は広西大虐殺、あるいは広西文革虐殺とも呼ばれています。

公式発表によると、この虐殺による死者数は10万人から15万人にのぼるとされています。犠牲者の殺害方法は極めて残忍であり、斬首、殴打、生き埋め、石打ち、溺死、さらには釜茹で、割腹、心臓や肝臓の摘出、性器切断、集団リンチ、爆殺、強姦後の殺害、鉄道線路への縛り付けなど、多岐にわたる非人道的な手段が用いられました。

虐殺の背景と経緯

文化大革命は1966年5月に毛沢東によって発動されました。広西では1967年3月頃から、自治区政府主席であった韋国清を支持する保守派「連指」と、韋への批判を求める造反派「4.22」という二大派閥が形成され、激しく対立しました。

当初、周恩来首相は「4.22」支持を表明しましたが、情勢は複雑でした。広州軍区は一旦「4.22」支持を装いつつ、実態は「連指」を支援しました。1968年に入ると、広州軍区司令員の黄永勝は「4.22」を「反動組織」と断定し、大規模な弾圧を開始します。これと並行して、韋国清らは架空の「中華民国反共救国団」を捏造し、「4.22」をこの団体と関連付けた徹底的な検挙と弾圧を行いました。

虐殺は段階的に進行しました。

1. 第一段階（1967年末〜1968年春）: いわゆる「四類分子」（地主、富農、反革命分子、坏分子）とその家族、および「4.22」支持者と見なされた人々が標的となりました。組織的な会議を経て全県統一の行動として殺戮が行われた例（霊山県で2900人超）も見られます。
2. 第二段階（1968年春〜秋）: 各地に革命委員会が設立され、「赤色政権防衛」や「反共救国団」摘発を名目に、組織的・計画的な殺人が主となりました。多くの殺戮は県革命委員会の指導下で行われ、「4.22」構成員や支持者が主要な犠牲者でした。同時期には両派間の武装闘争も激化しました（桂林）。
3. 第三段階（『七・三布告』発布後）: 1968年7月、中央は武装闘争停止を求める『七・三布告』を公布しましたが、広西ではこれを逆手にとって大量殺人が継続されました。農村部の「4.22」幹部が「反共救国団」の罪名で粛清され、権力側は南寧、桂林といった都市部を攻撃しました。特に南寧では、1968年7月から8月にかけて広西軍区が「連指」と協力して「4.22」支配下の市を包囲攻撃し、1万人以上が死亡したとされます。桂林でも「八二〇事件」とその余波で1万人以上が殺害されました。

この第三段階の頃、全国的には紅衛兵運動が衰退し、毛沢東は情勢コントロールのため軍隊を支持する側に回ります。研究者は、中央指導部が韋国清らの報告を鵜呑みにし、「4.22」の武力鎮圧を承認・支持していたと指摘しています。周恩来も態度を硬化させ、「4.22」や彼らを支持する北京の造反派を厳しく批判しました。

大規模な食人事件

広西虐殺の特異性は、これに付随して大規模な人肉食が広範な地域で発生したことです。飢饉がなかった当時の状況で、これは政治的憎悪やイデオロギー、儀式によって引き起こされたと考えられています。

中国の作家・鄭義氏が海外に持ち出した公式文書によると、少なくとも137人が食べられ、数千人が食人に関与した可能性が示唆されています。犠牲者の多くは心臓や肝臓を食用にされ、肉は切り分けられて配られたり、焼いて食べられたりしました。武宣県、武鳴区、貴県、欽州市など、少なくとも29の県で食人が報告されています。

食人の具体的な事例も記録されています。武宣県では、肥満を理由に殺害され、肉を切り分けられた農民や、教師の心臓や肝臓が学生によって持ち帰られ、焼いて食べられた事件がありました。貴県では、殺害した人々の肝臓を酒の肴にしたり、「熊の肝」と偽って販売したりした民兵営長もいました。上思県では、県革命委員会委員が殺人大会の犠牲者の心臓や肝臓を摘出し、革命委員会食堂で調理して「三代会」代表の肴にしたという事例も報告されています。

食人には段階があったと分析されています。最初は密やかに行われたものが、次第に経験が積み重ねられ技術が向上し、ついには「批判闘争」と結びついた集団的、狂乱的な行為へとエスカレートしていきました。

文革後の処理と研究

文革終結後、広西の虐殺と食人事件は中央へ報告されましたが、当時の広西指導部（文革期に権力を握った勢力）によって否定され、遺留問題処理は妨害されました。しかし、胡耀邦、習仲勲ら中央指導者の指示により、1980年代初頭に中央から3つの調査班が派遣されました。

調査は現地当局による妨害の中で困難を極めましたが、最終的な統計では、文革期間中の広西における異常死は氏名特定者だけで8.97万人、不明者を含めると14万人以上とされました。そのうち、組織的・計画的に殺害された人々が大多数を占めました。しかし、事件に関与した人々への処罰は極めて軽微なものにとどまり、指導者の中には昇進した者もいました。

広西虐殺、特に食人事件は、その特異性から多くの研究対象となっています。事件のメカニズムについては、国家の政策によるものか、地域社会の狂乱によるものかなど、異なる見解があります。人肉食が少数民族の伝統と関係するという説は、事件発生地域が漢族中心地帯であったことから否定されています。多くの研究者や海外メディアは、この事件が飢饉とは異なる、政治的イデオロギーや憎悪に根差した極めて異常な出来事であったと指摘し、その真相の究明と反省の必要性を訴えています。

広西虐殺は、文化大革命の最も暗く、理解しがたい側面の一つとして、今なお歴史に重く横たわっています。

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