胡耀邦

胡耀邦（こ ようほう）とは

胡耀邦（フー・ヤオパン、1915年11月20日 - 1989年4月15日）は、中華人民共和国の政治家です。字は国光。国務院副総理、中国共産党中央委員会主席（第3代）、そして初代中国共産党中央委員会総書記を歴任しました。彼の死は、その後の六四天安門事件を引き起こすきっかけとなりました。

総書記選出までの経歴

1933年に中国共産党に入党。中華人民共和国建国後は、中国共産主義青年団（共青団）第一書記、陝西省党委員会第一書記などを歴任しました。しかし、文化大革命が始まると1967年に実権派として批判され失脚。後に党主席となる華国鋒は、胡耀邦が湖南省党委に下放された際の部下でした。

文革後期の1972年に復活。1975年には鄧小平が提唱した「全面整頓路線」を推進し、優秀な人材の抜擢や育成に尽力しました。しかし、1976年の第一次天安門事件で鄧小平が再び失脚すると、胡耀邦も共に失脚。1977年、鄧小平の再復活に伴い、党中央組織部長に就任し、文化大革命中に冤罪で失脚した長老たちの名誉回復に尽力しました。

1978年、胡耀邦は中央党校の副校長を兼任し、南京大学教授・胡福明の論文「実践こそ真理を検証する唯一の基準である」に注目しました。この論文を基に「二つのすべて」を批判し、文革路線からの脱却を図る鄧小平を援護しました。同年12月の第11期3中全会で鄧小平の実権掌握に貢献し、中央政治局委員に昇進。党中央秘書長兼中央宣伝部長に抜擢され、1980年には党中央書記処総書記に就任しました。鄧小平のもとで文革の清算と改革開放政策が進められる中、1981年には党主席に就任し、鄧小平、趙紫陽とのトロイカ体制を確立しました。当時、鄧小平は「天が落ちてきても胡耀邦と趙紫陽が支えてくれる」と語るほどの信頼を寄せていました。

党主席・総書記就任

1980年5月、チベットを視察した際、その惨状に心を痛め、チベット政策の失敗を認めて謝罪し、政治犯の釈放やチベット語教育の解禁を実施しました。1982年には、中国憲法に基づき信教の自由を改めて保証し、僧院の再建や外国人旅行者の受け入れを開始しました。しかし、この政策は党幹部から激しく批判され、胡耀邦の更迭後に撤回されました。

1982年の第12回党大会で党規約が改正され、党主席制が廃止され総書記制が導入されると、胡耀邦は引き続き党のトップとして中央委員会総書記に就任しました。彼は改革開放路線と自由化路線を打ち出し、「4つの近代化」の具体的な目標を掲げました。また、若手幹部の抜擢も積極的に行い、江沢民、李鵬、胡錦濤らが中央委員に選出されました。1986年には「百花斉放・百家争鳴」を再提唱し、言論の自由化を推進しました。

しかし、1985年、香港の雑誌記者とのインタビューでの発言が鄧小平の不興を買い、さらに同郷の先輩である王震との関係悪化も重なり、党内での批判が激化しました。

胡耀邦と日中関係

1983年の訪日では昭和天皇との会見や中曽根康弘首相との首脳会談を行い、日中友好関係の構築に尽力しました。日本の青年3000人を中国に招待するプランを披露し、日中間の交流を深めました。また、中曽根首相とは親密な関係を築き、中国の首脳として唯一広島の原爆ドームなどを視察しました。1986年には中曽根首相が訪中し、中国人青年を毎年500人ずつ日本に招待することを提案するなど、日中関係は良好な時期を迎えました。しかし、胡耀邦の「対日接近」は、党内の保守派からの反発を招く一因となりました。

失脚

1986年、胡耀邦の政治改革は保守派の巻き返しにあい、棚上げされました。学生デモが発生すると、鄧小平は胡耀邦を批判。1987年1月、政治局拡大会議で胡耀邦は総書記を解任されました。罪状は「ブルジョワ自由化」に寛容だったためとされました。後任には趙紫陽が選出されました。

失脚後も胡耀邦は党内改革を呼びかけましたが、1987年11月には政治局員に降格となりました。

胡の死去と第2次天安門事件

1989年4月、胡耀邦は心筋梗塞で急逝しました。彼の死を悼み、民主化を求める学生デモは激化し、第2次天安門事件へと発展しました。この事件では趙紫陽も失脚しました。

胡耀邦は、人民服ではなく西側の背広を着てフォークとナイフを使うなど、合理的で開明的な指導者でしたが、それが長老左派の批判を招き、失脚につながりました。彼の墓は、江西省の共青城にあります。

生誕100周年と再評価への動き

2015年、中国共産党は胡耀邦の生誕100周年の記念座談会を開催し、習近平党総書記らが出席しました。習近平は胡耀邦を「偉大な革命家で政治家」と讃え、その功績を再評価しました。しかし、民主化問題には触れず、党内の融和と団結を訴えました。

発言

1979年2月、胡耀邦は「もし中国人民が我々中国共産党の歴史の真相を知ったならば、人民は必ず立ち上がり我々の政府を転覆させるだろう」というスピーチをしたとされています。

胡耀邦は、その開明的で改革を求める姿勢から、中国現代史において重要な役割を果たした人物であると言えるでしょう。

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