広重徹

廣重徹：科学と社会を繋いだ科学史家

廣重徹(1928-1975)は、20世紀日本の科学史研究において重要な役割を果たした科学史家です。物理学者としての出発から、科学史研究への転換、そして科学技術と社会との関わりを探求する独自の視点まで、彼の生涯と業績は多様性に富み、現代の私たちにも多くの示唆を与えてくれます。

物理学者から科学史家へ

兵庫県神戸市に生まれた廣重は、旧制中学、旧制高等学校を経て、1952年に京都大学理学部物理学科を卒業。素粒子論を志し大学院に進学するも、後に中退しています。在学中は民主主義科学者協会の活動にも参加しており、若い頃から社会運動に関わっていたことが伺えます。

その後、1957年に日本大学理工学部講師となり、物理学史研究室で教鞭をとるようになりました。1973年には教授に昇進。名古屋大学より理学博士号を取得した彼は、現代物理学史、特に明治以降の日本の自然科学の社会史的研究で大きな功績を残しました。残念ながら、若くして世を去ったことが惜しまれます。

彼の研究は、単なる学説史にとどまりませんでした。電磁理論の発展過程といった学説史的研究から、後にマルクス主義科学史の影響を受けた近代日本の科学技術推進体制の研究へと広がっていきました。吉岡斉氏の指摘によると、自身の科学研究経験を土台に、科学への過剰な評価や期待を是正することが、廣重のライフワークであったと言えます。

科学と社会の接点

廣重の研究は、科学を社会から切り離して考えることを拒否しました。科学技術が社会にどのような影響を与え、社会が科学技術にどのように影響するかを、歴史的視点から深く考察しました。特に、戦後の日本の科学運動や、科学技術政策における社会的な問題点について鋭く批判的な視点で分析を行いました。これは、彼が民主主義科学者協会の活動に関わっていた経験とも深く関連していると考えられます。

また、著名な物理学者である武谷三男の三段階説を、実証に基づいて否定したことも知られています。このことは、彼の研究が既存の理論や権威に盲従することなく、常に批判的な態度で臨んでいたことを示しています。

著作活動

廣重は、数多くの著作を残しました。代表的なものとしては、『近代物理学史 発展の過程を中心に』、『戦後日本の科学運動』、『科学の社会史 近代日本の科学体制』などが挙げられます。これらの著作は、今日でも科学史研究の重要な文献として高く評価されており、彼の学問的貢献の大きさを示しています。さらに、多くの科学に関する書籍を翻訳するなど、日本の科学史研究に多大な貢献を果たしました。

彼の著作は、専門的な科学史研究だけでなく、より広い一般読者に向けて書かれたものも多く、科学をより多くの人々に理解させようという彼の強い意志が感じられます。

科学史研究への影響

廣重徹の研究は、日本の科学史研究に大きな影響を与えました。彼の著作は、現代の科学史研究者たちに広く読まれ、引用され続けています。特に、科学技術と社会との関係を重視した彼の視点は、後の科学技術社会論の発展に大きく貢献しました。

若くして亡くなったことは誠に残念ですが、彼の残した著作や研究は、現在もなお、多くの人々にインスピレーションを与え続けています。彼の功績は、日本の科学史研究において不滅のものとなるでしょう。

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