府中通信施設

府中通信 施設の歴史と役割

府中通信施設は、東京都府中市浅間町に位置し、かつてアメリカ空軍が管理していた通信施設です。施設番号はFAC 3016で、その歴史は1940年（昭和15年）に旧陸軍燃料廠として開設されたことに始まります。

黎明期から冷戦時代へ

終戦後の1945年（昭和20年）9月、この施設はアメリカ軍に接収され、その歴史は大きく転換します。朝鮮戦争時には、アメリカ極東空軍の司令部が置かれ、戦域内の空輸作戦を統括する重要な役割を担いました。1952年（昭和27年）には、日米安保条約に基づき、アメリカ軍への提供施設として正式に位置づけられ、府中兵器廠や極東空軍航空資材司令部B地区として、物資の保管・貯蔵、車両の修理点検業務が行われました。

通信部隊が駐留するにつれて、テレタイプ回線の自動中継施設が設置され、アメリカ空軍の長距離通信システムの中枢を担うようになりました。1956年（昭和31年）には、アメリカ極東空軍の司令部が都心から移転し、重要な司令部機能を持つ施設としてその地位を確立しました。さらに翌1957年（昭和32年）には、在日米軍司令部とアメリカ太平洋空軍第5空軍司令部が設置され、日本国内におけるアメリカ軍の調整と作戦指揮の中核を担うこととなりました。

1960年代には、太平洋軍電子諜報センター、太平洋軍作戦連絡事務所、特殊情報通信自動中継センター、気象中継センターなどが設置され、太平洋・極東地域におけるアメリカ軍の重要施設としての役割を増していきました。特に太平洋軍作戦連絡事務所では、核戦争を想定した「単一統合作戦計画（SIOP）」の実行計画が作成され、核戦争時には西太平洋地域の作戦連絡拠点として機能する計画でした。また、太平洋軍電子諜報センターは、情報収集艦プエブロ号の活動を支援するなど、諜報活動の一端も担っていました。

最盛期と変遷

最盛期には、約2,300人の軍人・軍属と約1,400人の日本人従業員が勤務し、施設は活気に満ち溢れていました。しかし、ヘリコプターの発着による騒音や、マイクロウェーブ塔からの影響によるテレビ受信障害などの問題も発生していました。1973年（昭和48年）には、関東平野における米軍施設の整理統合計画によって、大部分が返還されることが決定し、1974年（昭和49年）には在日米軍司令部と第5空軍司令部が横田飛行場に移転しました。

その後、1975年（昭和50年）には通信施設を除く大部分が返還され、1977年（昭和52年）には施設名称が「府中通信施設」に変更されました。返還された土地の一部は、府中市立浅間中学校、府中の森公園、府中の森芸術劇場などとして利用されています。しかし、通信施設部分は依然として米軍によって運用され続けました。

終焉と現在

未返還の通信施設部分は、第475基地航空団の管理下で、空軍通信サービスによって運用されていましたが、1986年（昭和61年）に一部を除いて返還されました。その後、空自府中基地内の一部施設が在日米軍に共同使用の形で提供され、防空システムの戦闘指揮所などが利用されていました。

そして、2021年（令和3年）9月30日、残る0.78ヘクタールの土地と建物が日本に引き渡され、府中通信施設の歴史に幕を閉じました。現在、跡地には管理棟1棟と高さ107mのマイクロウェーブ塔1基が残っており、その歴史を静かに物語っています。

対流圏散乱波通信システム

府中通信施設の跡地には、対流圏散乱波通信用の大型パラボラアンテナとその関連施設が残されており、「府中トロポサイト」とも呼ばれています。このシステムは、1950年代末から1960年代前半にかけて整備された在日米軍の通信網の一部で、見通し距離外の遠距離通信を可能にするものでした。日本列島を縦断する形で設置されたターミナルは、全国の在日米軍施設を結ぶ重要な役割を担っていました。

このシステムは、国防総省の複合通信システムの一部を構成し、民間通信回線や衛星ターミナルとも接続され、アメリカ軍の部隊や施設間での通信を支えました。府中には、自動音声通信網（AUTOVON）のスイッチも設置され、日本国内や韓国との通話接続を担っていました。

関東計画と通信機能の移転

関東計画によって、在日米空軍の主要施設が横田飛行場に移転した後も、府中のAUTOVONスイッチは運用され続けましたが、後に横田への集約が決定し、1986年（昭和61年）には、パラボラアンテナ部分が返還されました。これにより、府中通信施設における専用地区はマイクロウェーブ施設部分のみとなりました。

冷戦終結後、1992年（平成4年）にはアメリカ空軍の大規模な再編が行われ、施設管理部隊の第475基地航空団が解散、第374空輸航空団が新たに施設管理を担当することになりました。現在、同航空団の第374通信中隊が施設を運用しています。

跡地の利用と将来

パラボラアンテナ部分の跡地は、国有財産中央審議会の答申に基づき処分留保地となっています。かつては、国立医薬品食品衛生研究所の移転に伴い解体される予定でしたが、計画が変更され、現在、新たな利用計画が検討されています。府中通信施設は、その歴史の中で、日本の安全保障と通信技術の発展に重要な役割を果たしてきたと言えるでしょう。

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