府県郷社明治神社誌料

『府県郷社明治神社誌料』（ふけんごうしゃめいじじんじゃしりょう）は、明治45年（1912年）に刊行された全3巻からなる書籍で、『明治神社誌料』とも略称されます。この書籍は、明治末期における日本全国の神社、特に府県社583社と郷社3,455社に関する詳細な情報を集めたものです。

各道府県の冒頭には、「土地民族の発展と神社の振興とは密接な関係がある」という観点から、上代から編纂当時までの歴史地理概説が記されています。これは、各地域における神社の位置づけを理解する上で重要な情報です。続く各神社については、府県社、郷社の順に、所在地、社名、祭神、由緒などが詳細に記載されています。また、各神社の末尾には、例祭日、会計法適用指定年月日、神饌幣帛料供進指定年月日、氏子戸数、崇敬者員数といったデータも掲載されています。

編纂にあたっては、明治12年（1879年）に内務省が定めた各神社の明細帳を基本としつつ、各神社の社伝や社記録にも直接あたり、由緒については特に考証を重ね、「正確を期す」ために様々な説を提示する方針がとられました。そのため、本書には逸書や珍しい縁起類も多く引用されており、貴重な文献となっています。特に、明治39年（1906年）の勅令によって行われた神社整理、いわゆる大合併が一段落した明治末期における主要な神社の状況を知ることができる、格好の資料と言えるでしょう。

本書は、椙杜吉次の主導により設立された明治神社誌料編纂所によって編纂されました。大隈重信、土方久元、千家尊福といった有力者が賛助し、久保悳鄰（日枝神社宮司）、藤岡好古（神宮奉斎会会長）、賀茂百樹（靖國神社宮司）が顧問として名を連ねています。実務面では、井上頼圀、本居豊穎、物集高見が監修を務め、宮地嚴夫、佐伯有義、宮西惟助が編纂、磯部武者五郎が編輯を担当しました。

また、本書の編纂過程で、各神社の祭神で事績が共通する者をまとめた『大日本神名辞書』が椙杜によって編まれました。これは、祭神に関する情報を参照する際の煩雑さを避けるための副産物と言えます。さらに、この『大日本神名辞書』を増補した『新訂増補大日本神名辞書』も存在します。

書籍の構成としては、各巻の内題は杉重華の揮毫によるもので、上巻には山縣有朋、桂太郎、西園寺公望、寺内正毅、土方久元、平田東助の題字と、大隈重信、千家尊福、井上友一の序文が掲載されています。各道府県と管内神社の配列は、廃藩置県後に制定された道府県や市町村区域台帳に基づいており、当時の行政区分に沿った形で情報が整理されていることがわかります。

本書に収録されている神社数は、府県社が583社、郷社が3,455社にのぼります。これらの情報は、神道研究、歴史研究、地域研究など、多岐にわたる分野で活用できる貴重な資料です。

参考文献としては、復刻版の『明治神社誌料』（講談社、昭和50年）、『神道大事典』第3巻（平凡社、昭和15年）などが挙げられます。また、国立国会図書館デジタルコレクションでは、上巻（NDLJP:1088244）、中巻（NDLJP:1088278）、下巻（NDLJP:1088313）が公開されており、インターネットを通じて閲覧することも可能です。

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