廃妃尹氏

廃妃尹氏：栄光と悲劇の生涯

廃妃尹氏（1455-1482）は、朝鮮王朝の歴史において、数奇な運命を辿った女性として知られています。彼女は第9代国王、成宗の2番目の王妃であり、後の第10代国王、燕山君の生母という重要な立場にありました。しかし、その華やかな地位の裏には、数々の葛藤と悲劇が潜んでいました。

尹氏は貧しい両班の家に生まれました。父を亡くした後、1473年、宮廷に入り、淑儀という地位を与えられます。絶世の美女であった彼女は、成宗の寵愛を一身に受けました。1474年、成宗の最初の王妃である恭恵王后が崩御すると、2年後、尹氏は王妃に冊封されます。これは、生母である仁粋大妃を始めとする多くの反対を押し切った成宗の強い意思表示でした。王妃に昇格して4ヶ月後、彼女は燕山君を産み、その地位は盤石なものとなりました。

しかし、尹氏の王妃としての生活は長くは続きませんでした。彼女は強い嫉妬心を持ち、王や宮廷の女官に対して尊大な態度をとることが多く、成宗の寵愛を受けた女官を殺害しようとするなど、度を越えた行動が目立ち始めます。1477年には、砒素を隠していたことが発覚し、他の後宮を毒殺しようとした疑いがかけられましたが、成宗の庇護によって難を逃れました。

しかし、成宗の尹氏に対する態度は次第に冷たくなっていきました。ある時、成宗は尹氏の母の遺品の中から、呪詛の文が書かれた書を発見します。この事件をきっかけに、1479年、尹氏は王妃の座から降ろされ、嬪に降格されました。

それから3年後、成宗は久しぶりに尹氏のもとを訪れました。しかし、激しい口論の末、尹氏は成宗の顔を爪で引っ掻くという不敬な行為に及んでしまいます。この事件は、大妃や他の妃からの強い反発を招き、成宗はついに尹氏を廃妃とし、宮廷から追放しました。さらに、尹氏が産んだ次男も生後3ヶ月で夭折するなど、不幸が相次ぎました。

廃妃となった尹氏への批判が強まる中、1482年8月、成宗は尹氏に賜薬を与え、その生涯を閉じさせました。尹氏の廃位と賜死については、貧しい両班出身である彼女を快く思わなかった大妃や後宮の妃妾たちの陰謀が働いたという説も存在します。尹氏の墓は当初建てられませんでしたが、成宗は世子の将来を考慮し、「尹氏之墓」という墓碑銘を与えました。後に燕山君によって「懐陵」と改称されましたが、燕山君の廃位後は再び「懐墓」に戻されました。成宗は自分の死後100年間は廃妃問題に触れないよう遺言しましたが、燕山君は後に尹氏の死の真相を知り、それが後に甲子士禍へとつながっていくことになります。

廃妃尹氏の生涯は、数々のドラマや映画で題材として取り上げられてきました。チャン・ソヒ、キム・ソンリョン、イ・ジュヒ、ク・ヘソン、チョン・ヘビン、ウ・ヒジンなど、多くの女優が彼女を演じ、その波乱に満ちた人生は、現代においても人々の関心を集め続けています。彼女の物語は、朝鮮王朝の権力闘争と、その中で翻弄された一人の女性の悲劇を象徴するものです。

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