廃罷訴権

廃罷訴権（はいひそけん）とは

廃罷訴権（はいひそけん、Action Pauliana）は、ローマ法に由来する、債務者が債権者を害する目的で行った財産移転行為を無効化するための権利です。この権利は、債権者の利益を保護し、債務者の不当な行為を是正することを目的としています。民法上の詐害行為取消権や破産法上の否認権の起源となっており、法制度において非常に重要な役割を果たしています。

歴史的背景

廃罷訴権は、ローマ法において「パウルスの訴権（パウルス訴権）」として知られていました。この名称は、この権利を認めた法務官パウルス、またはパウルスが記述した法文に由来するとされています。

ローマ法においては、強制執行は個別に行われるのが原則でした。しかし、債務者の全財産を処分しても全ての債権者を満足させられない場合、債権者は過去に行われた債権者を害する行為（詐害行為）を取り消すことが認められました。この権利がパウルス訴権であり、当初は債務者に詐害の意図があったことが必要条件とされていました（主観主義）。

しかし、中世イタリアにおいて商業が発展し、信用取引が増加するにつれて、債務者の財産状態が悪化しているという客観的な事実があれば、詐害行為の取消しが認められるようになりました（客観主義）。これは、債務者の意図よりも、債権者の保護を重視する考え方への変化を示しています。

各国における法制

ローマ法のパウルスの訴権に由来する権利は、各国で独自の発展を遂げました。特に、フランス法では民法において、ドイツ法では特別法において、そしてスイス法では破産法において発展しました。これらの法制度は、それぞれの国の状況やニーズに合わせて、債権者保護の制度を形成してきました。

各国の民法における詐害行為取消権や破産法における否認権は、もともとは同じ起源を持っています。つまり、ローマ法のパウルスの訴権が、それぞれの国の法制度に取り込まれ、独自の解釈や運用がなされることで、現在の形になったと言えます。

日本においては、かつて民法の詐害行為取消権が「廃罷訴権」と呼ばれていました。これは、フランス語の直訳を当てたものですが、現在ではほとんど用いられることはありません。

廃罷訴権の現代的意義

廃罷訴権は、現代においても非常に重要な概念です。債務者が不当に財産を隠したり、移転したりする行為を規制し、債権者の権利を保護する役割を果たしています。民法の詐害行為取消権や破産法の否認権は、この廃罷訴権の現代的な形であり、債権者と債務者の間の公平性を保つ上で不可欠な制度となっています。

このように、廃罷訴権は、古代ローマ時代から現代に至るまで、法制度の中で重要な役割を果たし続けています。その歴史を理解することは、現代の債権者保護制度をより深く理解する上で、非常に有益です。

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