廃虚の鳩

ザ・タイガース「廃虚の鳩」

1968年10月1日、絶大な人気を誇っていたグループサウンズ、ザ・タイガースから通算7枚目となるシングル盤が発表されました。その表題曲こそが、「廃虚の鳩」です。

楽曲詳細

「廃虚の鳩」は、叙情的な世界観を描き出す山上路夫氏が作詞を手がけ、独創的なメロディメーカーとして知られる村井邦彦氏が作曲と編曲を担当しました。この楽曲のリードボーカルを務めたのは、当時ザ・タイガースのメンバーであった加橋かつみです。彼の透明感あふれる歌声が、この曲の持つメッセージ性を深く表現しています。加橋はザ・タイガースを離れてソロ活動を開始した後も、自身のコンサートなどでしばしばこの「廃虚の鳩」を歌い続け、彼にとって特別な一曲であり続けています。なお、本楽曲は制作の初期段階では「ノアの洪水」という仮題で呼ばれていたと伝えられています。

カップリング曲「光ある世界」

本シングルは、「廃虚の鳩」をA面とし、カップリングには「光ある世界」が収められています。こちらの楽曲の作詞は、後に多くのヒット曲を生み出すなかにし礼氏、作曲・編曲は「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽でも有名なすぎやまこういち氏が担当しました。リードボーカルは、もう一人の中心メンバーである沢田研二が務めています。この「光ある世界」は、ザ・タイガースが主演した東宝映画『ザ・タイガース 華やかなる招待』の中でも効果的に使用されました。特に、沢田研二と共演女優である久美かおりが織りなす幻想的なデートシーンを彩る楽曲として、聴く者に強い印象を残しています。

アルバムへの収録と商業的成功

このシングルに収められた「廃虚の鳩」と「光ある世界」の両楽曲は、シングルの発売と同じ1968年にリリースされたザ・タイガースのサードアルバム『ヒューマン・ルネッサンス』にも収載されています。これにより、より幅広いリスナーがこれらの楽曲に触れる機会を持つこととなりました。

商業的にも本シングルは大きな成功を収めました。総計30万3千枚という高い売上を記録し、当時の権威ある音楽チャートであったオリコンでは、1968年10月21日付の週間ランキングで最高位3位を獲得しています。これは、ザ・タイガースが当時の日本の音楽市場において如何に圧倒的な人気と影響力を持っていたかを示すデータと言えるでしょう。

発売当時のプロモーション活動

本シングルのリリース直後には、大規模なプロモーションキャンペーンが展開されました。発売からわずか2日後の1968年10月3日には、メンバーの5人がそれぞれ個別に全国各地へと赴き、新曲のキャンペーンを行いました。具体的には、福岡、広島、大阪、仙台、札幌といった主要都市でプロモーションイベントが開催されたのです。中でも特に注目を集め、後世に語り継がれているのが、加橋かつみが広島市の原爆ドーム前で「廃虚の鳩」を歌唱した出来事です。平和への願いを込めたこのパフォーマンスは、多くのメディアで報じられ、単なる新曲キャンペーンの枠を超えた社会的な意義を持つ一幕となりました。

後年のカバー

「廃虚の鳩」は、時を経ても色褪せることなく、様々なアーティストによってカバーされています。その一例として、ASKAが2011年にこの楽曲をカバーし、配信シングルとしてリリースしています。これにより、オリジナル発表当時を知らない世代の音楽ファンにも、この名曲の存在が届けられることとなりました。

結び

「廃虚の鳩」は、ザ・タイガースというグループの多様な音楽性を示すとともに、彼らのキャリアにおける重要な節目を飾った楽曲の一つです。加橋かつみの繊細なボーカルと、戦争や平和といったテーマにも通じる普遍的なメッセージは、発表から長い年月を経た現在もなお、多くの人々の心に響いています。この楽曲は、単なるヒット曲としてだけでなく、当時の社会背景やグループの存在感を伝える文化的な記録としても価値を持ち続けています。

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