引接寺 (京都市)

引接寺について

引接寺（いんじょうじ）は、京都市上京区にあり、高野山真言宗に属する寺院です。この寺の山号は光明山で、本尊は閻魔法王です。一般に「千本ゑんま堂」とも呼ばれ、特に春の念仏狂言が行われる場所として知られています。

名前の由来

引接寺の「引接」という言葉は、仏が信者を浄土へ導くことを意味しています。その名にぴったりの場所にあるこの寺は、かつての京都の三つの有名な墓地の一つ、蓮台野の入口に建っています。現在も地獄の裁判官と称される閻魔の像が祀られており、特に子どもたちに「悪事を働かないこと」や「嘘をつかないこと」を教える場所として利用されています。また、寺務所では「えんま様のお目こぼし」という名のかき餅も販売され、訪問者のお土産となっています。

歴史

引接寺の成り立ちは、平安時代に遡ります。小野篁（802年 - 853年）がこの地で閻魔法王を祀るために祠を築いたことが始まりとされています。その後、1017年に藤原道長の支援を受けた恵心僧都源信の弟弟子である定覚によって本格的に寺院化され、その後も何度かの中興がありました。

中でも、1273年には明善律師によって再興され、安土桃山時代には、宣教師ルイス・フロイスの著作に引接寺の境内に関する記録が残されており、この時期に寺院の姿が認識されていたことがわかります。また、1574年に織田信長が上杉謙信に贈ったとされる「洛中洛外図屏風」の中には、千本ゑんま堂の姿が描かれています。フロイスの記述や国宝の作品によって、この寺が当時から重要な名所であったことがうかがえます。

千本ゑんま堂の大念仏狂言は、1964年に後継者不足から途絶える事態となりますが、1975年には「千本ゑんま堂狂言保存会」が結成され、焼け残った狂言の面をもとに狂言堂が再建されました。以降は復活した演目が毎年公開され、多くの人々に愛されています。

境内の特徴

境内には本堂、狂言堂、観音堂などがあり、特に本堂には閻魔法王の坐像が祀られています。脇侍として司命と司録の像も置かれ、信者の祈りを受け止めています。さらに、普賢象桜というユニークな遅咲きの八重桜や、重要文化財に指定されている紫式部供養塔（十重石塔）も見どころです。この塔は1386年に建立されたもので、歴史的価値が高いとされています。また、鐘楼には康暦元年に製作された梵鐘があり、特にその音色も訪れた人々に深い印象を与えています。

年中行事

引接寺では様々な行事が行われます。特に2月の節分会では、厄除けのための「こんにゃく煮（だ）」きが振る舞われます。また、5月の連休中には千本えんま堂狂言が行われ、地元の伝統文化を楽しむことができる場となっています。年間を通して、六斎念仏などの忘れられた風習や、盂蘭盆会といった行事も行われ、地域住民や観光客にとって貴重な体験となっています。

引接寺は、歴史的、文化的価値に満ちており、訪れる人々に深い感動を与える場です。仏教の教えを広め、地域の文化や伝統を支えるこの寺院は、京都の重要な場所であり続けています。

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