弘一

弘一（李叔同）

弘一（こういつ、1880年10月23日 - 1942年10月13日）は、中国近代における多才な人物です。詩人、禅僧、音楽教育者、芸術教育者として知られ、本名は李叔同（り しゅくどう）。李息霜、李岸、李良などの別名や、文涛、成蹊といった幼名も持っていました。仏教界では「重興南山律宗第十一代祖師」として尊崇されています。

生涯

若き日と芸術への目覚め

1880年、李叔同は天津に生まれました。父は吏部主事を務めた李世珍。幼い頃から仏教に親しむ環境で育ちました。5歳で父を亡くし、その後は伝統的な教育を受けながら、書道や金石学を学びました。16歳で輔仁書院に入学し、学問への道を歩み始めます。

1897年、母の勧めで結婚。しかし、彼は芸術への情熱を抑えきれず、ピアノを購入して音楽と作曲を始め、戊戌の変法を支持するなど、時代の変化にも敏感でした。城南文社に身を置き、袁希濂、許幻園らと「天涯五友」と称される交流を深めました。また、画家・任伯年と上海書画公会を創設するなど、芸術家としての才能を開花させていきます。

日本留学と演劇への挑戦

1906年、李叔同は日本へ留学し、上野美術学校で西洋画を学びました。留学中には革命運動にも関わり、文芸協会に参加。秋には芸術団体「春柳社」を創立し、中国における演劇の先駆けとなりました。1907年には、春柳社が『茶花女』（椿姫）を試演し、李叔同自身がマルグリット役を演じて成功を収めます。続く『黒奴籲天録』（アンクル・トムの小屋）の公演も大成功を収め、中国話劇の起点としてその名を刻みました。

この頃、日本の唱歌「旅愁」に触発され、後に「送別」として知られる中国語の歌詞を付けています。

教育者として

帰国後、李叔同は教育者としての道を歩み始めます。直隷高等工業学堂や城東女学で教鞭を執り、文学や音楽の授業を担当しました。南社にも参加し、文人としての活動も継続しました。

仏道への帰依

1918年、39歳で李叔同は出家を決意し、杭州の虎跑寺で了悟和尚に師事しました。法名を演音、号を弘一と改め、仏道に専念する生活に入ります。その後は各地の寺院を巡り、仏教を学び、人々に教えを説きました。特に律宗に深く帰依し、その復興に尽力しました。

晩年

晩年は泉州の草庵で療養生活を送り、その後、南普陀寺に住みました。1942年、泉州不二祠温陵養老院晩晴室にて生涯を閉じました。

芸術と精神

弘一は、音楽、絵画、書道など、多岐にわたる分野で才能を発揮しました。彼の作品は、初期には西洋の影響を受けつつも、次第に中国独自の美意識を取り入れたものへと変化していきました。特に書道においては、魏碑の力強い筆致を受け継ぎながらも、独自の境地を開き、晩年には円熟味を増した書風を確立しました。

また、「送別」をはじめとする彼の音楽作品は、今もなお多くの人々に愛されています。彼の作品には、人生の哀愁や無常観が込められており、聴く者の心を深く揺さぶります。

弘一の生涯は、芸術と宗教、西洋と東洋の文化が交錯する中で、自己を探求し続けた旅でした。彼の生き方と作品は、現代においても私たちに多くの示唆を与えてくれます。

主な作品

音楽

祖国歌
我の国
哀祖国
大中華
幽居
春遊
早秋
西湖
送別
落花
悲秋
晩鐘
月

絵画

少女
山茶花（中央美術学院美術館蔵）
李叔同自画像（日本東京芸術大学蔵）

書道

弘一の書道は、魏碑を源流とし、変化に富んだ筆致が特徴です。晩年は独自の書風を確立し、その作風は朴訥でありながらも清らかさを湛えています。

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