弘文学院

弘文学院（こうぶんがくいん）

弘文学院は、明治時代に嘉納治五郎によって設立された、清国からの留学生のための教育機関です。当初は「亦楽書院」という名称でしたが、後に「弘文学院」、さらに「宏文学院」と改称されました。この学院は、日本における組織的な留学生向け日本語教育の先駆けとして知られています。

設立の背景

1896年、日清戦争終結後、清国政府は日本への留学生派遣を決定しました。外務大臣兼文部大臣であった西園寺公望は、東京高等師範学校長であり柔道家としても知られる嘉納治五郎に留学生の受け入れを一任しました。嘉納は1899年、東京神田区に「亦楽書院」を開設し、13名の清国人留学生に対して日本語、数学、理科、体操などを教え始めました。

留学生の増加に伴い、1901年には牛込区に広大な敷地を持つ邸宅へ移転し、学院名を「弘文学院」と改めました。梁啓超との協力のもと、東京大同高等学校を吸収合併し、学院の規模を拡大しました。1903年には、清の乾隆帝の諱である「弘暦」の「弘」を避けて「宏文学院」と改称しました。最盛期には在校生数が500名を超え、1904年には4つの分校が開設されました。

教育内容

教育課程は、上級学校への進学を目指す3年制の普通科と、2年以下の速成科がありました。普通科では、日本語を中心に、英語、数学、理科、地理、歴史などの科目が教えられました。作家の魯迅もこの弘文学院の普通科で2年間学んでいます。

学院の終焉

1906年頃、東京には約8000人の清国人留学生がいたとされ、宏文学院は1500名以上の生徒を抱える最大の留学生教育機関でした。しかし、清国の留学政策の転換や日本語学校の乱立、文部省が公布した規則に対する留学生の反発などが重なり、生徒数は激減しました。1909年7月、宏文学院は閉校しました。創立から閉校までの入学者総数は7192名、卒業・修了者は3810名でした。

学院設立の意義

清国が日本に留学生を派遣する背景には、アヘン戦争やアロー戦争での敗北、日清戦争での敗北などがありました。これらの敗戦を通じて、清国は西洋文明の摂取が急務であると認識しました。梁啓超や張之洞らは、西洋文明を学ぶには日本が最も効率的であると主張し、留学生派遣を推進しました。

教師陣

弘文学院には、多くの優れた教師がいました。国語の専門家である三矢重松と松下大三郎、日本語教師の松本亀次郎、中国語学者の井上翠などが教鞭を執りました。その他、本田増次郎、正木直太郎、門馬常次、三沢力太郎などがいました。学習院教授の東野十治郎は、嘉納治五郎の依頼で1904年に数学教授となり、清国人学生のために数学の教科書を編集しました。

参考文献

藤井省三『魯迅－東アジアを生きる文学』（2011年3月19日、岩波新書）
北岡正子『魯迅日本という異文化のなかで : 弘文学院入学から「退学」事件まで』（関西大学出版部、2001年）

関連事項

Category:弘文学院出身の人物
東亜高等予備学校
法政大学清国留学生法政速成科

外部リンク

支那留學生教育の大本山 宏文學院の創始及び其の經營 - 『嘉納先生伝』横山健堂 著 (講道館, 1941)

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