弥左衛門町の歴史
弥左衛門町は、江戸時代初期から昭和5年まで、東京府東京市
京橋区に存在した町です。現在の東京都中央区
銀座4丁目の一部、具体的には晴海通り、
銀座レンガ通り、松屋通りに囲まれ、並木通りを挟んだエリアに位置していました。この地には、江戸時代に創建された宝童稲荷神社が現存しています。
誕生の経緯
元々、八重洲河岸にあった老月村内町の草分け名主である長谷川弥左衛門の土地が、寛永5年(1628年)に幕府に召し上げられたことが、弥左衛門町の始まりです。その代替地として、隣接する新肴町とともに現在の
銀座4丁目2~3番地に移転し、新しい町が誕生しました。町名は、この草分け名主である弥左衛門の名前に由来しています。長谷川家は、江戸時代を通じて名主を務め続けました。
町の変遷
明治元年(1868年)に東京府に所属し、明治11年(1878年)には
京橋区に編入されました。そして昭和5年(1930年)に
銀座西四丁目に編入され、その歴史に幕を閉じました。明治5年時点での記録では、戸数は104戸、人口は479人でした。
歴代名主
弥左衛門町を治めた名主は、町の歴史とともにその名前を刻んでいます。徳川家康が江戸に入府した際、以前から江戸にいた者、家康入府後に命じられた者、町屋建設時に町役頭や名主と呼ばれた者たちは「草分け名主」と呼ばれ、特に由緒のある存在とされました。長谷川家の伝承によれば、初代名主である長谷川弥左衛門は、家康とともに三河から江戸に来ましたが、武士を嫌い町人となり、弥左衛門町を拝領したと伝えられています。
歴代の名主は以下の通りです。2代目以降は「伊左衛門」を名乗っています。
初代:長谷川弥左衛門 直廣(慶安3年8月18日没)
2代:長谷川伊左衛門 廣政(寛永18年9月8日没)
3代:長谷川伊左衛門 廣勝(元禄14年7月20日没)
4代:長谷川伊左衛門 廣常(宝暦2年2月20日没)
5代:長谷川伊左衛門 廣貞(宝暦3年11月8日没)
6代:長谷川伊左衛門 常與(宝暦14年5月29日没)
7代:長谷川伊左衛門 恒壽(寛政元年9月19日没)
8代:長谷川伊左衛門 則良(文化元年4月8日没)
9代:長谷川伊左衛門 則親(嘉永2年8月18日没)
10代:長谷川伊左衛門 則隆(嘉永4年2月11日没)
11代:長谷川伊左衛門 均造(明治39年7月16日没)
弥左衛門町の地域と施設
宝童稲荷神社
弥左衛門町には、宝童稲荷神社が鎮座しています。御祭神は倉稲魂命で、例大祭は10月下旬に行われます。創建は江戸時代初期で、宝童稲荷縁起によれば、元々は将軍家の跡継ぎの成長を守るために江戸城内に祀られていた神社でした。この稲荷が防災に霊験あらたかであったため、弥左衛門がその分霊を受けて建立したと伝えられています。子供の健やかな成長を守る神様、また、弥左衛門町を発祥とする多くの企業があることから、商売繁盛の神様として、今日でも崇敬を集めています。2016年には、名古屋商工会館(現在のG4 BRICKS BLD.)の建て替えに際して、参道が寄進され、アートな参道としてデザインされました。
経済と産業
弥左衛門町は、江戸末期から明治期にかけて多くの店や企業が誕生した地でもあります。以下に代表的な企業を挙げます。
主な企業
松崎煎餅:文化元年(1804年)に創業し、慶応元年(1865年)に三代目が弥左衛門町に移転しました。
大日本印刷:明治9年(1876年)に秀英舎として弥左衛門町で創業した活版印刷会社です。
宮本商行:明治13年(1880年)に宮本勝が設立し、銀製品を扱う企業として、明治32年(1899年)に弥左衛門町に店舗を構えました。
ミキモト:明治32年(1899年)3月に御木本幸吉が真珠店を弥左衛門町に出店しました。
クロサワ:明治34年(1901年)に黒澤貞次郎が黒澤商店を創業し、日本初のカナ文字タイプライターを販売しました。
味の素:明治34年(1901年)に二代鈴木三郎助が東京事務所を弥左衛門町に開設しました。
電通:明治34年(1901年)に光永星郎が日本広告株式会社を弥左衛門町に設立しました。
ゆかりの人物
文芸評論家・詩人として知られる
北村透谷は、明治14年(1881年)に家族とともに弥左衛門町に転居し、泰明小学校に通学しました。
弁護士として活躍した
平岡萬次郎も、弥左衛門町にゆかりのある人物です。
参考文献
人事興信所編『人事興信録 第4版』人事興信所、1915年。
東京市企画局都市計画課編『東京市町名沿革史 上巻』東京市企画局都市計画課、1938年。
野口孝一「銀座物語」中公新書、1997年。ISBN 4-12-101387-5
石井昭子「長谷川家の伝承について」私家本、1991年。
この地域は、歴史と文化が融合した場所であり、多くの人々に影響を与え続けています。